さようなら8月




「ねえ。知ってた?」
「なにを?」
「今日で、夏休み終わるんだよ」
「そんくらい知っとるわ」
目の前に座る、ギャグだろと言いたくなるほど季節に反して真っ白い人物を見据える。

「…なら、なんで夜11時に家に押しかけて宿題写してるわけ?」
冗談は、肌の色だけにしろよと続ければ、書いていた手を止め私を見て「はあ」とため息つきやがった。
「返せ」
「あ!ちょお、動かすなや。ずれたやんけ!」
苛ついて自分のノートを引っ張ればそれを止めてくる手を叩く。
「痛!叩くなや!」
「文句あんなら帰って」
嫌や、と一言返しまた宿題を写し始めた姿になんだかバカらしくなって、後ろのベッドに凭れかかった。
「横、なんで毎回学習しないの?いっつも休みの最終日にうちに来てさあ」
開けたままだったじゃがりこをかじりながら、小学校から続くもはや伝統になりつつあるこの流れを思い返せば、今年でそれも終わることに気づいた。
なんとなく、胸にすくった感情に気づかないふりをしてじゃがりこをまた1本手に取った。
「こんな時間食ったら太るで」
「誰かさんと違うから大丈夫」
にっこり笑って言えば「ほんま、腹立つ」と拗ねて「よし!次は、日本史!はよ出して!」と手を伸ばす横に目を丸くする。
「まだ、あんの?!横…まさか全教科とか言わないでよ!?」
「アホ!逆になんで1教科だけすんねん」
その一言にめまいがして、風呂も入り終えた私は「そこ、机の上にあるから勝手にして」とベッドに上がり寝る体勢に入った。
「え?寝るん?」
横の声も聞こえないふりして、壁側を向いた。
終わるの待ってたら、絶対朝までコースじゃん。無理無理。と心の中で返事をした瞬間、背中側がグッと沈んで振り返ればすぐそばに横の顔があった。
「ちょっと、勝手に上がるな!」
「ほんま寝るん?」
「寝るよ!待ってたら朝までかかるでしょ!」
「いっつも起きとってくれたやん」
「横がうるさいから寝れなかっただけ!今日はもう無理!」
そう言って、横の肩を押せばその手を取られ握られる。
「な、なに…「なんで、毎回ここに来るかわからん?」
急に真剣な顔で聞いてくる横は、いつもはすぐ照れるくせにじっと瞳を見つめてきて私の方が逸らしてしまう。
「ほんまは気づいてんねやろ?」
顔も逸らしたせいで、耳に直接聞こえた声に全身が熱くなる。
「名前」

そんな風に名前を呼ぶ横を私は知らない。

ギッと鳴ったベッドの軋む音に反応した時には、横に真上から見下ろされ肩越しには天井が見えた。

反射的に顔を横に向けて見えたデジタル時計は、00:00を表示し0901に日付が変わっていた。

さようなら、8月。
さようなら、昨日までの私たち。



20160901


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femme的、SUMMER OF 2016。
いかがでしたでしょうか?
9月になりましたが、残暑厳しいですね。
次は、冬にまた企画したいなあ。


[ 7/7 ]

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