1.三銃士に守られた場所

「俺のプリン食ったの誰じゃボケ!!」

世間は、仕事や学校がまた始まる月曜日。
休みボケもありつつ、慌ただしく過ぎてしまう朝の時間をいかに、有効に遣い余裕持って過ごしたいと思うのは私だけではないはず。
なのに、それが1度も出来た試しがないのは、決して自身だけのせいではない。
「もう、亮ちゃん朝から怒鳴らないで!さっさと、ごはん食べちゃってよ」
バタバタと台所とリビングを往復しながら、冷蔵庫の中を何度も漁る姿に訴える。
「今日の朝は、プリン食うって決めとってん!つうか、お前ちゃうよな?」
いきなり、容疑をかけられて「違うよ!ぎゃあぎゃあ騒ぐの分かってるのに食べないよ!」とテーブルの上に醤油差しをドンと置けば、ぎゃあぎゃあってなんやねん!と諦めたのか、やっと冷蔵庫からどいた亮ちゃんは苛々を全身で表しながらあぐらをかいて座った。
「名前ちゃんおはよ〜」
リビングから廊下に出るドアが開き、のっそりと現れた我が家の末っ子に、おはようと返すとまた、亮ちゃんが俺のプリン食ったやろ!と容疑をかけ始めるのが聞こえて溜息が出た。
「え、あれ亮ちゃんのやったん?」末っ子の朝特有ののんびりした声がリビングにひとつ。
その瞬間、「お、おま、俺がどんだけっ」あっさり認めた末っ子になんで亮ちゃんが動揺するのかわからないけど、今にも掴みかかりそうな距離につめたのが視界に入り、急いで2人の間に立った。
「亮ちゃん、プリン買って帰るから!忠義も冷蔵庫のは聞いてから食べてって言ってるでしょ!てか、亮ちゃんも名前書けばいいじゃん!」
「あはは。やんなあ。名前書いてへんかったもん」
「はあ?てか、お前食うたくせになにヘラヘラしとんねん!」
のんびりマイペース、末っ子忠義の長所でもあり短所でもある被害を1番に受けるのは、短気なくせに肝心なとこで気が弱い次男の亮ちゃんだ。
「もう!2人ともあんまり騒いでると…「なに、朝からぎゃあぎゃあ言うてんねん」
言い合いしていた、次男と末っ子はピタリと面白いぐらいに静かになり私はリビングに入ってきた声の主におはよう!と元気よく挨拶した。
「ほら、すばるくんも来たから朝ごはん!」
その声に、全員定位置に座り、毎朝の号令。
「なら、いただきます」
「「いただきます」」
我が家の長男であり、今や亡き両親に変わり一家の大黒柱でもあるすばるくんに、亮ちゃんも忠義も決して逆らわない。まあ、普段はすばるくんはどちらかと言えば甘やかしてる方ではあるが、その分怒るとめちゃくちゃ怖い。ましてや、あんなプリンひとつで朝から取っ組み合いになろうもんなら、間違いなくすばるくんの蹴りが2人に思いっきり入っていただろう。
「みんな、今日の予定は?」
もくもくと、目の前の食べ物を流し込む男3人衆に問いかける。
「俺は、遅くなるけど飯はいる。」と味噌汁をすするすばるくんに、「今日は飲み会やから、いらん」とお弁当の残りのから揚げをほうばる亮ちゃんに「あ、バイト8時までやねん。名前ちゃん、何時まで?」のんびりなくせに食べ終わるのは早い忠義が聞いてきた。
「今日、無いんだけどちょっと苗字のばあちゃんに会いに行ってくるから。あ、夕ご飯までには帰るからね」
そう伝えれば、「飯、気にせんとばあちゃんとこゆっくりしてこい」とすばるくんが言ってくれる。
「でも、どっちにしても施設は面会6時までだから大丈夫。ありがとう」と返せば、ん。と一言頷きすばるくんは、ごっそさんと律儀にお皿を下げ洗面所の方へ向かった。
「あ!てか、亮ちゃん今日帰るかどうか連絡してよ!お風呂とか、いろいろあるんだから!」そう言えば、「はいはいはい」と憎たらしい答えが返ってきた。
「ふふ。名前ちゃんおかんみたい」
そうニコニコ笑う忠義に、へらっと作り笑顔だけして自分のお皿を下げ、部屋に向かった。乗らなきゃ行けない電車の時間まであと、15分。
鞄に今日の講義のレポートが入ってるのをしっかり確認し部屋を出ようとしたら、外からドアが開いて仕事着のすばるくんが立っていた。
「お前、今日一人で大丈夫か?」
すばるくんの言わんとすることが分かって、「…苗字の家じゃなくて施設だから大丈夫だってば」そう、返せばまだ納得してないのか目の前からどいてくれないすばるくんに「時間が無いの!」と訴えればしぶしぶ、横にずれてくれる。
「なんかあれば、すぐ連絡せえよ」
そう言って頭を撫でてくれるすばるくんに頷いて、行ってきますと玄関へ向かった。

「名前ちゃーん!送ってくでー」
玄関を出れば、バイクにまたがり制服のネクタイが曲がったままの忠義が待ってましたとヘルメットを渡してくる。そのまま、ヘルメットを受け取るとパンツのポケットに入れていた携帯のバイブが鳴り、ヘルメットを腕にかけ画面を見れば、今度は次男からのLINE。【今日、終電には帰る】
それを読んで、思わず笑いが出る。「亮ちゃん?」と聞いてきた忠義に頷き「すばるくんといい、忠義も亮ちゃんもみんな心配しすぎ」と言って、後ろにまたがればミラー越しに忠義がなんとも言えない顔で笑ったのが見えた。

大丈夫、私は、幸せだ。


20160705




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