17.さようなら、また逢う日まで

「名前ちゃ〜ん!俺の黒いTシャツ知らん?」
「え?タンスに入ってなかった?」
「ちょお、誰!俺のジュース勝手に飲んだん!」
「あたしは違うよ」「あ、あれ亮ちゃんのやったん」
「はあ?お前、毎回毎回勝手に飲むなや!」
「名前書いてへんかったし」
「なっ、そ、そんな書いてなくてもまず聞くやろ!」
「はいはいはい。2人とも静かにしないと…「朝からぎゃあぎゃあうっさいねん」

大の大人が3人密集して、冷蔵庫の前で騒いでいれば後ろから聞こえた抑揚のない声にピタリと止まる。
「名前、飯」
「「「はい」」」なぜか、亮ちゃんと忠義も返事をしていそいそといつもの定位置へと座った。
もうすぐ、この家で過ごす最後の年が明けようとしていた。

すばるくんと忠義にいつものようにお弁当を渡して送り出す。亮ちゃんは、バイトが休みらしく二度寝すると部屋へ上がった。よくよく考えると、病気で寝込まない限り毎朝4人で朝食を食べていた。年が明ければあっという間に春になり、今の当たり前が無くなるんだと少しだけ感傷的になっていたらエプロンのポケットに入れていた携帯が鳴る。画面を見て嫌な予感がする。
「はい、」



ゆっくりと煙突から上がる煙を見上げる。
少しだけ風が吹いて、煙が一瞬消えまた上った。
「おばさんに会えたらええなあ」
横から聞こえた声にそちらを向けば、スーツに黒いネクタイをした忠義が同じように煙を見上げている。
「ばあちゃん、最期は眠るようにいけたんやろ?それがなによりやん」
逆側には亮ちゃんが忠義と同じような格好で、私に問いかける。優しい亮ちゃんらしい言葉に、やっと止まった涙がまた溢れそうになる。
「…お母さんと笑って話せてたらいいな」
3人並んでもう一度、空を見上げる。煙はまだ上っている。

「そろそろ行くか」
後ろから聞こえた声に振り向くと、すばるくんが白い紙袋を片手に持ち立っていた。
忠義と亮ちゃんが先に歩き出し、少しだけ遅れて着いて行く。2人はすばるくんを抜かし、私を待っているすばるくんはゆっくりと空いている手を差し出した。
その手を掴み、歩き始める。ぎゅっと握ってくれるすばるくんは優しく笑った。また、涙が溢れた。


「名前、下で一杯せえへん?」
お風呂も上がって、部屋で卒論の最終チェックをしていれば珍しくすばるくんからのお誘い。
それに頷いて、おつまみ作ろうか?なんて聞いてリビングに入れば、亮ちゃんと忠義がいつもの場所に座りテーブルには、すでに何皿かつまみが用意されていた。
「え、どしたん?」
「たまには、俺らも名前ちゃんを労わろうかと思ってん」と忠義がニコニコ笑いながら、見て、俺が作ってん!とつまみを指差す。
「ええから、はよ座れやあ」とすでに缶ビールを開けている亮ちゃんに促され私も定位置に座った。
「ま、俺らからのささやかな餞別」
すばるくんは、そう笑って私に缶ビールを渡す。
「餞別って…」
「名前ちゃんには、ずっと家のことしてもらったやん。やから、せめてものお礼!今日はなんも気にせんと飲も」と隣に座る忠義が肩を組んでくる。
「ほら、乾杯しよ!じゃあ、まあお疲れ!」と無理矢理亮ちゃんが音頭をとりそれに、3人で笑いながらツッコミ乾杯した。
みんなの気持ちが嬉しかった。お礼を言わなきゃいけないのは私なのに。
「アホ、泣くなや」
苦笑いしてすばるくんが頭を撫でてくれる。それに「わ!俺らの前でイチャつかんで!」と忠義が文句言う。
「これのどこがイチャついとんねん!俺かて一応気使ぉとんねん!」頭に手を置いたまますばるくんが返せば「早よ、泣き止めって!お前のせいやろ!」と亮ちゃんが私に文句言う。それがなんだかおかしくて、泣きながら笑った。

私は、この兄弟に守られて生きてきた。

「3人とも、愛してるよ」

そう言えば、優しく笑ったすばるくんに照れたのか顔を伏せて笑う亮ちゃんに「俺も愛しとるよ名前ちゃん!」と抱きつく忠義。
その日、久しぶりにリビングに布団を敷き詰めて4人で眠った。


おばあちゃん、お母さん、お父さん安心してね。
私には、こんなに素敵な家族がいます。





20160912










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