12.崩れたお城

こんなに家に帰りたくないと思ったのは初めてだった。


「忠義、入るで」
門の手前で中々入ろうとしない俺を亮ちゃんが呼んだ。玄関の明かりが点いているのは、2人が帰ってきている証拠だ。
さっき見た光景がずっと頭を離れない。
いつから?名前ちゃんとすばるくんは付き合ってたん?血は繋がってへんけど兄妹やのに?

「…ょ、し、忠義!」
再度名前を呼ばれ意識を戻せば亮ちゃんが眉間に皺を寄せて俺を見ていた。
「まだ、わからんことやから。いつも通りしろよ」
「…わかっとるよ」
そう言う亮ちゃんになんとなくイラついて、門をくぐり先に玄関の扉を開けて中に入った。
玄関の土間には、名前ちゃんの揃えられたパンプスの横に珍しく綺麗に並んだすばるくんのスニーカーが目に入った。いつもは脱ぎ捨ててるくせに。なんだか、ひどく目についてしまう。
「あ、忠義おかえり!」
頭上から聞こえた声にぱっと顔を上げれば、名前ちゃんが笑って俺を見下ろしていた。
「ごめんね、夕飯。亮ちゃんとちゃんと食べた?お土産にケーキあるよ!」
いつもと変わらず笑いかける名前ちゃんに、俺もいつもと同じように笑わなければと思うのに、どうしてもさっきの場面が頭を過る。
「忠義?」
「…ごめん、あんま腹減ってへんねん。今日先寝るわ」

そう言うのが精一杯で、靴を脱ぎ名前ちゃんを追い越してそのまま2階へ上がった。
きっと後から玄関に入ってきた亮ちゃんは呆れるだろう。
…別にええやん。血が繋がっとるわけやない。2人が想い合ってんなら弟なんやから祝福しないと。
部屋に入ってベッドに寝転ぶ。
なのに、どうしてこんなにショックなんだろう。
隠されてたから?名前ちゃんが取られたから?
誰か教えて欲しい。今更回ってきた酒のせいにして無理矢理目を閉じた。


「亮ちゃん…忠義なんかあったの?」
明らかにいつもと違う末っ子に動揺して呼び止められないままその背中を見送ると、背後で玄関が閉まる音がする。
振り返れば、亮ちゃんが私を見て一瞬悲しげな顔をした気がした。
「…あいつ調子乗って、酒飲みすぎてんねん。寝たら治るから心配せんでええやろ」
靴を脱いで、私を見てそう笑う亮ちゃんに「そっか…」としか返せず、リビングに向かう姿を見つめる。
なかなか帰ってこない私を不思議に思ったのか、リビングの扉を開けてこちらを伺うすばるくんに亮ちゃんが何か話して入れ違うように、すばるくんがこっちに来る。
「どしてん?」
「忠義と…亮ちゃんがなんかおかしくて」
「亮も?…普通な気したけど」
そう言いながらすばるくんは「とりあえず、あっち行くで」と私の背中を押した。


次の日の朝目覚めたときに、すでに忠義は家を出ていた。
こんな事初めてで、情けないけど涙が出そうになった。

20160908


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