11.ブラザーブラザー

ああ、ついにこの時が来たんだとわかった。


「亮ちゃん、明日さすばるくんも名前ちゃんも夕飯いらんねんて。俺らどうする?」
風呂上がりのビールを1人、リビングで飲んでいれば卒業してすぐ染めた明るい茶髪をガシガシとタオルで拭きながら冷蔵庫を開ける忠義が聞いてくる。

「2人とも…?」
「おん。なんか、すばるくんは歓迎会かなんかで名前ちゃんはゼミの集まりやって。すばるくんからさっき言われた」
それを聞いて、すばるくんは先週歓迎会やったはずやし名前もしばらくゼミは無いと俺に言っていた。しかも、あいつじゃなくすばるくんが夕飯のことを忠義に言うなんて。ついに、この日が来たのかもしれないと無意識に缶ビールを持つ手に力が入って缶のヘコむ音がした。
「亮ちゃんは、明日大学やっけ?外で待ち合わせる?」
俺も飲もうかなーと呑気に言う忠義に若干苛つきつつ、まあたまには2人でも悪くないとそれに頷いた。


次の日の朝、普段着のすばるくんがリビングにいてやっぱり、と思いつつも久しぶりの大学のため、忠義に「また、夕方連絡する」と声をかけ1番に家を出た。振り返って見慣れた家の2階の窓を見る。薄いピンクのカーテンは開けられ、窓枠に見える写真立てには忠義の卒業式の日に4人で撮ったものが飾られている。
忠義を真ん中に左側にはすばるくん、右側には小さな頃から横に並ばされていた名前と俺。
何年も変わらない構図なのに、無性に泣きたくなった。



「亮ちゃん、なん頼むー?」
学生にはありがたい価格が並ぶ居酒屋で夕飯を決めて、久しぶりに2人で向かい合う。とりあえず、生かなーと言う弟に「お前、あんま飲むなや」まだ未成年やろ、と小声で付け加えれば「その言い方、すばるくんそっくり」と笑われ、一瞬苛つく自分にハッとする。
こんなふうに、憎んだり嫌いになったり。絶対にしたくない、と思っていた。こんなの、オモチャを買ってもらえない子どもと一緒だ。

「あ〜あ、名前ちゃんもおったらええのに」
焼き鳥を食べながら俺の後ろにある窓の外を眺めながら頬杖ついて言う忠義に呆れながら自分も串に手を伸ばす。
「お前、ほんまあいつべったりやな。ええ加減、姉離れせなやろ」
「別に仲良しなんはええやん。名前ちゃんから離れるとか絶対嫌。ほんまは、まだ諦めてへんもん」
そう言った忠義の言葉に、体が先に反応し肘がテーブルの端にあった小皿に当たり下に落としてしまった。
「あ!やべ!」
「え?割れた??」
いや大丈夫、とそれを拾えば店員がすぐに来て新しい物と取り替えてくれる。
「も〜。亮ちゃんもう酔ってんの?」
馬鹿にしたように笑う忠義に、うっさいわと返しつつ先ほどの言葉が頭にチラつく。
「諦めてへんって、なにを?」
そう聞けば、一瞬キョトンとした忠義は「へ?あぁ、いや名前ちゃんが家出るの。なんとかならへんかなあ?」
そう言い枝豆の皮を皿に放り、ジョッキを流し込む忠義に思わず「なんや、そっちか」と返した。
言った瞬間しまった、と思いなんとなしに忠義を見れば「亮ちゃんさあ、」と口を開くのを避けるように俯いた。
続く言葉を待っていれば向かいからは何も聞こえてこず不思議に思って忠義を見ると、俺の背後をジッと見て「今の…」と呟き、「名前ちゃん!」と声を上げ立ち上がる。
周りの客も何事だと忠義や俺を見てくるのに、すみませんと頭を下げ「ちょ、座れや」と中腰で立ち忠義の肩を掴むと「亮ちゃん…今、外名前ちゃんと」
「わかったから早よ座れって…」
「すばるくんやった。絶対」

その言葉に、情けないくらい動揺して肩を掴んでいた手を離して、今だ立ったまま窓の外を見つめる忠義をそのままに力が抜けたように椅子に座り直した。
「…見間違いちゃうん」
そうであってくれと願うように、半笑いで忠義に言えば「あの2人をいっぺんに見間違うなんてあらへんやん」と、ガタと音を立てて忠義はようやく座った。
気付けば、周りはすでに俺らには目もくれず各々楽しんでいる。

「たまたま、どっかで会ったんちゃう?そんな、ショック受けんでも「手、繋いどった」


「亮ちゃん、すばるくんと名前ちゃん手、繋いどってん」

なんで、お前がそんな泣きそうな顔すんねん。
居酒屋独特の賑わいがひどく、耳に残った。


20160906





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