9.スイッチを押したのは、君


「38.9℃。完全に移っとるやん」
ボーッとするなあ、と思いながらいつものように朝ご飯を作ろうとキッチンに立てば起きてきた忠義に「名前ちゃん、なんか顔赤くない?」と聞かれ、あれよあれよと言う間に気付けばベッドに舞い戻っていた。
計り終えた体温計を見て、呆れたように温度を言う忠義に徐々に体の節々の痛みを感じ始めた。

「すばるくんが治ったと思ったら。とりあえず、病院連れて行くのすばるくんか亮「忠義、お前もう行かな遅刻するで」
枕元に座る忠義の後ろにすばるくんの姿が見えて、ボーッとする意識の中「忠義、ありがと。大丈夫だから行ってきて」
そう告げれば「じゃあ、すばるくん後よろしくな。行ってきます」
それに笑顔で返し、入れ替わるようにすばるくんが枕元に座った。
「今日、亮は大学行かなあかんらしいから俺が連れてくわ」
そう言いながら、前髪を避けながら額を触り「高いな…」と呟く顔を見つめる。
あの日のキスのことを全く話してないけど、あれ以来すばるくんは変わった。
「とりあえず、病院開くまでまだあるから寝とけ。な?」
優しく頭を撫で、出ていた肩を覆うように布団を引っ張るすばるくんの手を上から握った。
「すばるくん、「わかっとる。お前が治ったらちゃんと話そう。逃げへんから」
真っ直ぐ目をそらさずにそう言ったすばるくんに安心して、瞳を閉じた。


「名前、やっぱりインフルやった?」
夕方、1人テレビを見とると亮が帰ってきてリビングに入ってきた。手には、ポカリやら入ったビニール袋。
「やったで。完璧俺のやなあ。さっき見に行ったらだいぶ薬効いとるみたいで寝とったで。」
「なら、後でええか」
亮はそう言って、買ってきたものを冷蔵庫に直している。その後ろ姿を見て頭に浮かぶ背中。初めて触れたあの情景が頭の中に流れ込んできた時に「すばるくん?」名前を呼ばれ、ぶっ飛びかけた意識を戻せば亮が怪訝そうな顔で俺を見ていた。
「え?なに?」
「いや、俺が聞きたいわ。視線感じて振り返ったらめっちゃ怖い顔で見てんねんもん、俺のこと。なんかあったん?」
亮にそう言われ、先ほど浮かび上がった情景にまた飲み込まれそうになり頭を振った。
「いや、ちょっと頭痛かってん。病み上がりやしな」誤魔化すように笑えば、ジッと見てきた亮は数秒黙って「そっか。とりあえず、今日の飯は出前取る?名前は、お粥も食べるかわからへんし」と笑って、着替えてくるわとリビングを後にした。

無意識に溜息が出る。お互いが何かに気付いているのに確信には触れないように。亮の貼り付けたような笑顔を見てこれで本当にいいのか、と思ってしまう。でも、どうしようもない。また、あの情景が頭の中に流れてくる。今度は最後まで。あの時俺は、自分でも驚くほどの独占欲が身体中に溢れていた。熱で体が熱いのか、この行為に熱くなっているのかわからないほど、ただ夢中で目の前の唇にキスをしていた。

抑え込んでいたものを、情けないほどにぶつけた。合間に見た彼女の瞳が、なにを思っていたのか考える余裕なんてなかった。


20160812






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