6.あれは誰に誓った口づけだった?


ゆらゆらと、漂う其れは、恋と呼ぶ、

「あれ?名前ちゃん、どうしたん?」
聞こえた声に驚いて、振り返ると少し大きめのTシャツに派手な色の短パンを履いてこちらを見るヤスがいた。
ひとつの部屋の前につっ立ったままの私に近づいて、「こんな時間やのに、おったからびっくりした」といつもの人懐こい笑顔を見せてきた。
「ヤスこそ、寝れないの?」
「ん〜?や、俺は丸と部屋飲みしてた帰り」
明日もライブがあるというのに、相変わらずのタフさに呆れるが、どっかの大きな男と違って目の前の彼は、セーブしながら飲むんだろう。
なんとなく、そんなこと思ってると、ヤスがじっと見てるので、なに、と聞けば大倉、と返されて心臓がどくんと鳴った。
「名前ちゃん、大倉となんかあったん?」
可愛い顔して、ストレートに聞いてくるヤスにジロっと視線を送れば、
「昨日からなんか、よそよそしくない?ってか、話もしてへんやろ」
「空気読んでよ」と訴えれば、
名前ちゃんだけしかおらんから聞いとるんやろ、と首をかしげたヤスに眩暈がした。
これは、逃げられない。ちょっと、あっこ座らへん?と先の休憩スペースを指差したヤスが先を歩き始めた。
「ほんま、名前ちゃん大倉のことになるとわかりやすいよなあ」
嫌味にしか聞こえない台詞に、溜息をこぼす。
「そんなこと言うのヤスだけやで」ヤスの後ろを付いていきながらちらっと、部屋のドアを見てため息をついた。

並ぶように腰を下ろしたら、ヤスは間髪入れずに口を開いた。

「名前ちゃんはさ、ずっと大倉見てたやん?」

その言葉にヤスを見ると、想像以上に優しい顔で私を見ていた。
動揺が顔に出たのか、ふっと息を漏らすように笑ったヤスは、やっぱりわかりやすいやん、と今度はあはは、と声を出して笑った。
その笑顔になんだか力が抜けて、先ほどのことをぽつり、と話した。


「で?大倉は?」
ことの次第をを話すと、ヤスは驚きもせず深く突っ込みもせずに不思議そうに聞いてくる。
「…部屋に置いてきた」
「え、それって」
「冷静になりたかってん」
「でも、キスしてすぐ部屋でてきたんやろ?大倉残して」
「まずいよね」
「てか、はっきり聞いてまうけど名前ちゃんは大倉のこと好きなんやろ?」
ヤスの言葉に顔が熱くなる。
絶対に気づかれたくなかった。だから、頑張って無表情で、冷たいなんて言われてもこの気持ちがばれてしまうくらいならそれでも良かった。
「好きなら、ちゃんと伝えたったら?」
「簡単じゃない」
「キスまでしてんのに?大倉やって、好きやって言うてくれたんやろ」
黙るしかない私にヤスは、ため息をついてこれは、俺の勝手な意見やけど。と切り出した。
「大倉は、ほんまに名前ちゃんのことが大事やねん。そばで見てる俺が言うんやから保証する。なにを怖がってんのかはわからんけど…名前ちゃんが逆やったらめっちゃ悲しくない?好きな子とキスしたのに、ひとり部屋に置いてかれてんで?」
その言葉にうつむいていた顔をあげてヤスを見た。
部屋を出てくるとき、大倉は慌てて私を引き止めた。なのに、ひとりにして!って言い放ってしまった。
ぎゅっと、目をつぶって息を吐いた。
「ヤス、ありがとう。大倉のところ行ってくる。」
そう言って立ち上がって、ヤスを見下ろすと行っといで、と優しく笑った。

今日、ロビーですばるくんに言われたことを思い出す。

「お前が素直にならへんと、なんも変わらんで。逃げんな」

この部屋に入って、きっと出る頃にはなにかが変わってるのかもしれない。
この恋を、気持ちをきっと彼は、受け止めてくれるだろう。


深呼吸をして、部屋のインターフォンを押した。


titleby星食
20160704




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