14.ただ普通に恋をした。それだけだった。




リハーサルを終えて、携帯を見ても事務所からも名前ちゃんからも連絡は無かった。
スタッフの話が本当なら、なんで俺は呼ばれんのやろう。考えながら、ひとつの嫌な予感が頭を過る。
もしかして、名前ちゃん「大倉?」
突然名前を呼ばれ、思考を遮断して後ろを振り返ると今からリハなのかすばるくんが立っていた。
「すばるくん…」
「どないしてん。めっちゃ怖い顔やで」
俺を見ながら苦笑いするすばるくんに名前ちゃんが今回のツアーから外れたこととその理由を言えば、表情が変わり眉間に皺を寄せて「なにそれ。どうゆうこと?」と呟く。
「名前は?」
「今日はまだ、連絡取れてへん」手の中の携帯に視線をやれば真っ暗な画面に自分が映る。
「…お前らなんか撮られたん?」
思い当たる出来事を考えていたら、リハ室に入ってくるマネージャーを見つけ急いで足を向ける。
「大倉、「名前ちゃんは?」
マネージャーより先に口を開けば、俺の言葉に厳しい顔をし「ちょっとこっちに来い」とリハ室をまた出て行く。それに、付いていけば振り返ったマネージャーは「…お前、名字さんと恋人なのか?」と声を潜めて聞いてきた。
「スタッフさんらが言うてたけど、週刊誌の記事なんて書いてあったん?」
質問には答えず、聞き返せば黙ったマネージャーは、スーツの上着の内ポケットから四つ折りにした紙を出して俺に差し出す。
「お前の出方で、これを見せるか考えてた」
紙を受け取り、開けばそこには笑いが出そうなほど馬鹿馬鹿しい記事が書かれていた。
「なんなん、てか名前ちゃんは一般人やろ?なんでここまで…」
「実名も出てないし、写真もない。はっきり言って週刊誌側からしたらうちの事務所のネタは金になるんだよ」
「やからって…これ、抑えんの?」
そう聞けば、マネージャーは渋い顔をして「上の考えで、このまま出させるらしい。お前の名前や渋谷とのことも書かれてるが、「ちょっと、待ってや。こんなん、名前ちゃんって分かる人おるやん。それに、仕事やって」と言って、ふと気づく。
「ツアー外れたのって、今だけやろ?落ち着いたら、また振り担当すんねやろ?」
「いや、彼女は今日付けで契約打ち切りだ」

その一言に、頭の中が真っ白になった。
「打ち切りって、クビってこと?」
「ああ。形上は辞職だ」
その言葉に、マネージャーの横を通り過ぎる。
「大倉、「俺、事務所行ってくる」彼女は、一切お前とのことを話していない」
その言葉に、振り返って「やから、」
「上が、お前との関係を聞いて彼女は否定した。それが、どういうことか分かるだろ。彼女は、お前のために否定したんだ」
「…そんな言い方したら、俺が諦めると思ってんねやろ?でも、俺は「上は、彼女に次の職場を紹介するらしい。今より高待遇で、彼女の実力も理解した上でだ。新しい場所で、彼女は再スタートするために」
なに、それ。
再スタートって…。こないだ、決めてん。なんでも、話そうって。守るよって。
名前ちゃんと、二人でこれからも…

「今、お前がなにか言えばこの話も彼女から無くなってしまうぞ」


こんな時に、普段めったに笑わない名前ちゃんの満面の笑顔が頭に浮かんだ。
彼女に、名前を呼ばれた気がした。

マネージャーの顔を一度見て、振り切るように走り出した。
背中から、名前を呼ばれたけど止まるつもりは無かった。

もう、彼女の口から聞いたこと以外信じない。




20160726




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