13.突きつけられたのは、鋭いナイフ

先輩との事件があってから、何事もなく1週間が過ぎようとしていた。
忠義とも、前と同じようにお互いの家を行き来しながら最近は、ツアーのリハーサルも佳境に入ってますます一緒にいる時間が増えていた。
今日も、午後からダンスリハでその前にキスマイの新曲の振り練でスタジオに向かっていた。事務所に併設されたスタジオに着けば入り口で、関ジャニのチーフマネージャーがいて挨拶しよう足を向けたら先に私に気づいたマネージャーが、血相変えて近づいてきた。
「名字さん、良かった。今、連絡しようと思ってたんだ」
その言い草と表情に、明らかに良い話では無さそうで「急ぎですか?今からキスマイの…「それは、もう別の人にお願いしたよ」と言われ、マネージャーを見れば難しい顔で私を見た。
「とりあえず、上の会議室に一緒にいいかな」
はい、と頷くだけで精一杯だった。



「あれ?今日、名前ちゃんじゃないの?」
新曲の振付で、久々に会えると思っていた親友の彼女の姿はなく先にいたメンバーに聞いても首をかしげる。どうしたんだろう…と思っていれば最後にタマが眠そうに入ってきた。
タマは俺らを見回したあと、「さっき、名前ちゃん関ジャニのマネージャーとどっか行ってたよ?」俺ら、今日振り練無いの?と呑気なことを言うタマに口を開きかけてまた、リハ室の扉が開きもう一人の振付してくれるダンサーが入ってきた。
「いきなりだけど、今回の新曲は俺になったから」と鏡の前に立った。
「え?名前ちゃんは?」と二階堂が聞けば「あ〜、なんかよくわからないんだけど外されたっぽい』とその人は言う。
とりあえず、時間無いから始めるよ。と振り練が始まっても頭の中は彼女が気になっていた。
大倉は、なにか知ってるんだろうか。


午後になって、雑誌の仕事を終えて今日もツアーのリハーサルに向かう。
忙しいし、しんどいけど行けば彼女に会える、なんてファンの子に悪いななんて思いつつも公私混同はしません。と誰かに誓いリハ室に入れば異様な空気が漂っていた。
一緒に来たヤスと信ちゃんと顔を見合わせスタッフが固まっているところに声をかけた。
「おはようございます。なんか問題でもあったんですか?」と信ちゃんが聞けば話していたスタッフは、輪を崩し俺をちらっと見て「いや、急なんですが名字さんが今回のツアー外れるようになったらしくて」

その言葉に言われた信ちゃんじゃなく「は?」と俺が聞き返していた。
「理由は?てか、ツアー来週やのに急になんで?」とヤスが口にすれば、スタッフは言いにくそうに俺を見て「事務所に、週刊誌から次の掲載記事が送られてきたそうなんですが」
「何?また、すばるん時みたいに熱愛か」と信ちゃんが言えば「熱愛というか、結構内容がひどかったらしくて。もちろん、事実じゃ無いと俺らは思ってますけど。書き方が、その…」
「俺のことも書かれてんの?」
一斉にみんなが俺を見た。
「たつ、なんか知ってんのか?」「大倉?」
信ちゃんとヤスが心配そうに伺って見てくる。
「…名前ちゃんは今どこなん?事務所?」と尋ねると「恐らく…」と返ってきて急いでリハ室を出ようとして、肩を思いっきり掴まれる。
「お前、行ってどうすんねん」
「どうするって、やって俺も関係してんねんで。なんで名前ちゃんだけが呼ばれるん?」
肩を掴んだままの信ちゃんに言えば、「大倉」と呼ばれる。
「もし、お前もなら連絡が来とるはずやろ?なんも無いってことは、お前が行くことで話がややこしくなるかもしらん。」
「でも、」と言いかけて「ツアー、来週やぞ。時間もあらへん。振りだってまだ完璧やない。そんな状態でライブするんか?」と諭すように話す信ちゃんの手が優しく肩をさすった。
「とりあえず、お前やっていつ呼び出しなるかわからんのやから。今のうちに頭に入れとけって」
ヤスも黙って俺を優しく見ていた。
「信ちゃん、ヤス、早く頭入れよ。今日はなにがなんでも巻くで」と言えば「お前…」と呆れた笑いが二人からこぼれた。


会議室に入れば、すばるくんと記事が載った時と同じ空気でやはり、こないだのことが撮られたんだと思った。
「急にすまないね。今日、週刊誌側から次週の掲載記事が送られてきた。内容、見るかい?」と言われ頷けば、目の前に置かれたコピー用紙には『ジャニーズ担当の振付師。ジャニーズ内で男食い』と笑いが出そうなほど品のない文章がでかでかと載っていた。
そこには、私がすばるくんと幼馴染でもあることや地元での嘘の男性遍歴や、写真はないが忠義と現在交際しているとも書かれてあった。
「ここに、書かれてることはどこまでが嘘なのか説明してくれる?」
「すばるくんと地元が一緒なのは本当です。私の兄と友人でもあります」と言えば「そう」と返ってきて「じゃあ、大倉とのことは?この、君の先輩だという男性が証言している文章が他の目撃証言と一緒らしいんだが」
そこには、あの日の出来事が細かく書かれSNSに挙がっていたという忠義と私の目撃情報も書かれていた。
「どうなの?」
「…これは、この先輩と少しトラブルがありまして。その時、たまたま大倉さんが居合わせて助けて頂きました。ですが、大倉さんとの間になんの関係もありません」
そう、目の前の上層部の人たちに言えば「こないだ、渋谷との記事が載っただろう。あれは嘘だと言っても今回のこの記事が出れば前回のことも世間には事実に聞こえる」
言っていることは最もだった。
「君には、申し訳ないが事務所との契約を打ち切ってもらう」
その言葉に、チーフマネージャーを見れば目を伏せて眉間に皺を寄せていた。所詮、代換のきく人間だ。

拒否なんて、できるはずもない。


心の中で、忠義に呼ばれた気がした。

20160723






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