9.写真の中でもあなたを想う



「最悪だ…」


休みの日の朝、枕元で鳴り続ける携帯に起こされしぶしぶ布団から出て携帯の画面をスライドする。
大量に並ぶ着信履歴の並んだ名前の一覧に軽く朝から目眩がする。

写真


とりあえず、事務所へかけ直そうとしたらまさに、また着信を知らせる音が手の中で鳴り通話をタップした。

「じゃあ、君たちの間に関係は無いんだな」
「ありません」
隣ですばるくんがはっきりと言い私もそれに頷き返事した。
目の前のテーブルには、週刊誌が広げられでかでかと一面に熱愛、長年の愛、と書かれすばるくんと私が並んで歩いている写真が載せられていた。

「ほんまごめん」
「いや、頭あげてよ。すばるくんのせいじゃないでしょ」そう言えば、すばるくんは頭をあげ「つ〜か、大倉…」とつぶやいて、テーブルにまた頭を突っ伏した。
「ちゃんと話すから大丈夫。ね?」


とは、言ったものの目の前の人物は今まで見たことない表情で、黙っている。
「大倉…?」
「どういうことなん?」
向かい合って座ったリビングのテーブルには、まさかの週刊誌。事務所を後にし、朝からかかってきたままの着信に折り返すとワンコールで出た大倉は「今から行く。家おって」と聞いたこともない冷たい声で電話を切った。そして今に至る。
「すばるくんとはなんもないで?たまたま、事務所で会って途中まで一緒に帰っただけやねん」
「わかってる。けど、俺はすばるくんと一緒に帰ったなんて聞いてへんし」
「いや、そんなんいちいち言わ」と言いかけて、大倉を見れば眉間に皺を寄せこちらを見た。
「…ほんま、ごめんな?嫌な思いさせたやんな」
「名前ちゃんさ、すばるくんとおる時めっちゃ楽しそうやもんな。そりゃ、週刊誌の人らも恋人やと思うよ」
ずいっと週刊誌を見せられ、確かに私の目元は隠されてるが口元は笑っている。なんで、こんなに笑ってたんだっけ?思い返して、蘇ってきた記憶に思わず顔が笑ってしまう。
「なにがおかしいん?俺、怒ってんねんで」
低い声を出した大倉に慌てて、ごめんごめんと言えば「もお!名前ちゃんほんまわかってる?!世間には、すばるくんと恋人やと思われたんやで!」
彼氏は俺やっちゅーねん!と週刊誌をバンッと閉じた大倉は、最悪や、とテーブルにうつ伏せた。
怒っている理由に、喜んじゃダメなんやろうけどふつふつと胸に広がる感情のままに、椅子から立ち上がりうつ伏せたままの大倉に後ろから抱きついてみた。
びくっとして、少しだけ振り返り「ずるいで」と呟かれる。
「なんで、あたしがすばるくんと笑ってたんか知りたい?」と聞けば「…知りたないし」とまた顔を前に向いた大倉の耳元で囁く。

「すばるくんに、大倉とのこと聞かれてん。それで、あんなに笑っててん」

そう思い出した記憶を話せば、「あ〜もう!!」と声をあげ椅子から立ち上がった大倉は背中に抱きついたままだった私を自分の前に引っ張り、正面から抱きしめてきた。
「そんなん言われたら許してまうやん…」
「許してや。せっかく久しぶりに一緒の休みなんやし」見上げた大倉は、仕方ないと言った表情で私を見下ろし、「惚れたもんの負けやな」と額に唇を寄せた。
仲直りしたとこで、大倉は週刊誌をゴミ箱に投げ入れいつものふにゃっとした表情でソファーに座り、隣に私も腰を下ろした。

「あ、てかこの際やから言うけど。すばるくんって言うなら俺も忠義って呼んでや」
肩に寄りかかってきた大倉に「ぜ、善処する」と言えば「絶対呼ばせよ。ベッドの中で」と寒いセリフが返ってきた。
拗ねたのか、膝に頭を乗せて寝っころがり携帯をいじりだした大倉を見下ろしその横顔を見つめる。

「忠義」

初めて名前を呼んだ顔を見たら、恥ずかしがらず早く呼べばよかったと思えるほど、満面の笑みが私を見上げていた。


君が思っている以上に、私は…。





20160712






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