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結局、高速に乗って横浜は寄らずに高速パーキングに入る。時間も時間で、たくさん並んだトラックの合間を縫うように車を停めた。
人気も少ない時間のおかげか、すばるも車を降りて二人で自販機に向かう。
「わ、コーンポタージュ飲もうかな」
「おう。飲め飲め」ガコン、と音が響いて出てきた缶を取り二人でそのままそばのベンチに座る。

「見て。意外と星が綺麗」
上を見上げれば、山の中のパーキングのせいか星が東京にいるよりも綺麗に見える。冬の空は澄んでいて夏の夜空よりも好きだ。
「ほんま。こんなん見たのいつぶりやろ…」
同じように空を見上げるすばるを見る。それに気づいたすばるは「なんやねん」と私を横目で見てくる。

「ねえ、もう一回始めてみようって言ったでしょ?」
その言葉に、空から視線を私に向け「うん」と返す。「あれ、本気?」
「…本気やなかったら言わへんわ。俺、もう30過ぎてんねんで」と返してくる。
「でも…「確かに、俺らがダメになったのはお前より仕事取ったからやで。それは否定せえへん」
まっすぐ前を見て話すすばるの横顔は、スヌードで半分埋まっている。
「やけど、あの頃より俺はお前の守り方も分かるようになった」
その言葉に、ハッと息を吸い込んですばるを見れば、「俺が知らへんかと思ったか」と見てきた。
「お前が、あの頃…別れる数ヶ月前から様子が変やとは気付いててん。やけど、俺のこと思って黙っとるのは分かってたし、それに甘えとった。…お前を守ってやれんくてほんまごめん」

あの頃、すばる達ははどんどん名前が売れて、たくさんのファンが増えて。そうすると、プライベートなんてあって無いようなもので。
私のことが、事務所にバレるのも時間の問題だった。むしろ5年も続いたことが奇跡だ、と別れて思ったりもした。
「別れる時、お前なんも言わへんやったやん。ちょっとずつ距離取り出して最後の方は、まともに会話もしてへんし」
「…うん」
「あの時は、事務所から別れろってプレッシャーかけられて。お前が直接言われてんの知っとったのに、どうしても俺から言い出せんくて。…名前から言わせてもうてほんまごめん」
その言葉に、首を振る。すばるが、最後まで別れようって言わなかったのはすばるなりの優しさだと分かっていた。
だからこそ、綺麗にさっぱり忘れてあげなきゃと必死だった。
「…もう、あれからさ3年経って。確かに、堂々とは出来ひんかもしらんけど。でも、今の俺らなら大丈夫と思わん?」
気温が低いせいで、すばるが話す度に白い息が出る。

「俺は、お前を忘れたことなんかない」
その言葉を聞いた瞬間、ボロボロと涙が溢れてきた。
ずっと、強くなった気でいた。泣き明かした夜を何度も越えて、時には恋なんて馬鹿らしいと強がる自分さえいた。
でも、それは全部ただの作り物で。本当は、ずっとずっと。
表紙の雑誌も、出ているテレビも、聞こえてくる歌声も。避けたって自分の中に入ってきた。

「この3年は、俺らには必要やった。やからこそ、お前にこうやって言えんねん」
抱きしめられてすばるの細い体にしがみつくようにくっついた。
「好き。ずっと好き、大好きなの」
そうしがみついたまま言えば、すばるの腕の力が強まったのがわかってさらに涙が出た。

「名前ちゃん大好きやで」
恥ずかしいのか、ちゃん付けで耳元に吹き込むように言うすばるに笑ってしまう。
それが、すばるの最大級の愛情表現だとわかるから。

「とりあえず、車行く?アホみたいに寒いわ」と私の手を取り立ち上がらせて歩くすばるの顔が照れていることに気付いて、また少しだけ涙が出た。


20160920






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