□ □ □


「おかえり」
「…ただいま?」

出迎えられた玄関で、すばるは私の言い方に笑う。

「なんで疑問系やねん。普通に言えばええやん」とリビングに向かう背中に付いていく。
「風呂入る?」と当たり前に聞いてくるすばるに苦笑いして「今日は、終電で帰る」と返せば「え?なんで?」と本気で驚いた顔してこっちを見てくる。
着ていたジャケットだけ脱ぎ、「明日から出張なの」キッチンに行って買って来た食材を置く。
「どこ?」「明日は、名古屋」
すばるはソファに寝そべり、声だけで返事をしてくる。
「ねえ、親子丼とオムライスどっち?」
「オムライス」
即答で帰ってきた答えにやっぱり、とこっそり笑う。
袋から玉ねぎと人参を出して、袖口をまくった。

「すばる、すーばーる。出来たから食べてよ?あたし帰るから」
作ってる間に寝たのか、肩を揺すって起こすと寝起きのとろんとした目が私を見ていた。
「聞いてる?残りはタッパに入れて冷凍庫だからね?」聞こえたかわからなかったが、まあ冷凍庫開ければ気づくだろうし(恐らく)とジャケットとコートを着て鞄を持った。

「…名前、送る」
玄関に行けば背中から聞こえた声に振り向くと、青いスヌードをぐるぐる巻いてジャケットを着たすばるが立っていた。
「いいよ。それより食べて。最近外食でしょ?キッチン綺麗すぎだもん」と笑ってドアノブに手をかけると反対の手を掴まれる。
「すばる〜。終電着ちゃうから」
「やから、送るって。行くで」
手を取られたまま、すばるはドアを開けて玄関を出る。鍵を閉めて歩く背中を見ながら繋いだ手を振り払えない自分が、もう答えな気がした。

「車、変わってないんだね」
久しぶりに乗った助手席は、あの頃の記憶を一層蘇らせる。
「好きだったな〜、夜中のドライブ」
「無駄に横浜とか行ってな」
デビューして、どんどん売れていったすばると昼間にデートなんて出来なくて。たまに、連れて行ってくれる夜中のドライブが私たちのデートだった。
「…行くか。今から」
「は?」
交差点の信号で止まると、すばるは私を見て「横浜。俺、明日休みやし」と言ってくる。
「いや、私明日出張だってば」
「名古屋やろ?持って行かなあかんの、無いん?」
明日の出張は、講習会で今後の広告業界について講演を聞くというものだ。特に、なにかいるというよりは、メモ取るものさえあればいい。そう考えている自分にハッとして「いや、でも、」としどろもどろになる。
「横浜行って、名古屋やな」
「…本気なの?」
動き出した車が、高速に向かっていることに気づき白旗をあげた。
「…どっかでコーヒー買おう。熱めのブラック」そう言うとすばるは声を出して笑った。


20160920




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