□ □ □


20代前半だった私たちは、相手に寄りかかって依存して、一緒にいられればそれでいいと本気で思っていた。それがお互いをどんどん苦しめているとは気づかずに。


「ま、とりあえず飲むやろ?」
指定された店に着いて通されたのは完全個室で、こんなとこ仕事の接待以外で来たことなくて緊張しているのはそのせいだ、なんて言い聞かせた。
「…なんかさ、変な感じ」
とりあえずの一杯を飲んで、当たり障りない会話をして料理をつまみながら思ったことが自然と口から出る。
「変ってなに?」
「だって…、付き合ってたころはこんな風にお店で食べたりしなかったでしょ」
そう聞くと、相変わらず器用に椎茸を避けるすばるに笑う。
「椎茸、まだダメなの?」
「これは永遠に無理」そう言いながら、「…あの頃は、デビューしたばっかでピリピリしとったしな」と笑う。
「お互い、年取ったね」
「確かにお前は老けた」
その言葉に、無言でおしぼりを投げつける。
「ちょ、やめろや」
「喧嘩売るためにわざわざご飯誘ったわけ?」
じとっと睨めば視線を逸らして「ちゃうやん。…会いたかってん」と聞こえて心臓がどくんと鳴った。
ちらっと私を見たすばるは、鼻をすすりながら「そない驚く?」と笑った。
「お、驚くっていうか…」
「…俺がそんな言う権利ないか」と話を切りすばるは日本酒の入ったグラスを傾けた。
その言葉になにも返せないまま、私もグラスを手に取り口につけた。


「あ〜。いっぱい食べたし、いっぱい飲んだ」
お店を出て夜もいい時間になったせいか、人通りも少なくなっていた。緊張したせいかいつもより回ったお酒にふわふわしながらも、なんだかんだ楽しんだ自分がいた。
「ちょ、声が大きい」すばるに腕を取られ道の端に連れて行かれる。
「あ、ごめん。すばるくんはアイドルだもんね」と笑えば「ほんま腹立つわ〜」と私の腕を離した。それが少し寂しくて振り切るように「じゃ、今日は楽しかった。ありがと」とすばるを見る。
黒いキャップに眼鏡をかけたすばるは、「ちゃんと帰れるん?」と聞いてくる。
「大丈夫。言うほど酔ってないし、タクシー拾うから」と笑って返す。「なあ」とそれに応えるようにすばるが呼ぶ。
「なによ?」と関西のイントネーションを真似て言えば「ふふ」とすばるが笑う。
「下手くそなん使うな。…今から、俺んち来てって言うたらどうする?」

その言葉に笑っていたのが止まった。すばるを見れば、大きな瞳が真っ直ぐ私を見ていた。

「…それは、どういう意味で?」
「どういう意味やったら来てくれるん?」ずるい言い方だと思った。

きっと、これが3年前だったらなにも考えずに頷いていただろう。
でも、すばると別れて私なりに乗り越えたの、いろんなこと。情けないほどに寂しくて泣いた日も、つけていたテレビですばるを見ちゃった日も、街中で聞こえてきた貴方の歌声も、なにもかも。


「泣くほど嫌なん?泣くほど嬉しいん?」
ぽたぽたと落ちる涙をすばるの手が拭う。瞼を閉じて、流れた涙がすばるの手を伝って袖口に染み込んでいく。

ねえ、すばる。あの日、こうしてほしかったよ。

そう言ったら貴方は悲しそうに笑った。


20160920







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -