キャーという声援の中、私はただ一点を見つめる。
目線の先は、ステージの上でキラキラと輝くベーシスト。
今日、一つ年を重ねた愛しい人。
「…瞬くん、お誕生日おめでとう。」
もちろんステージ上にいる彼に聞こえるわけないのだけれど、周りの黄色い声に紛らわしてそうつぶやいた。
「――悠里!」
「あ、瞬くん!おつかれさま!」
ライブが終わって関係者入り口前で待っていた私の名前を呼びながら走ってくるのは、今日年を重ねた私の恋人。
「こんな寒いところで待っていなくても、悠里なら楽屋通してもらえただろう。」
「ううん、今日は瞬くんの誕生日だし…メンバーでなにかするんじゃないかなって。」
メンバーのみんなが瞬くんへのサプライズを用意していたら、と考えると邪魔しに入っていくのもな。
「そんなの、アンタが心配しなくてもいいのに。」
「…でも」
プイッと拗ねている瞬くんの腕をつかみ言葉を続ける。
「これからの時間は私が独り占めしちゃうでしょ?」
「…っ」
ね、と笑顔を向ければ眉をひそめる瞬くん。
「せっかく家までガマンしようと思っていたのに、」
「ん?」
「そういうかわいいことを言うから、こういうことをしたくなる。」
「きゃっ!」
ぎゅっと抱き締められて体がビグッと震える。
瞬くんは衣裳を着替えていないから、かすかな汗の匂いとさっきまでの興奮が伝わってくる。
「…なんか、不思議」
「不思議?」
「だって。いままでステージ上で輝いてた人が今はこうやって…」
腕のなかでごそごそすれば瞬くんは少しだけ力を弱めて私の顔を覗き込む。
「今は輝いていない、って?」
「そうじゃなくって。」
瞬くんの意地悪な投げ掛けにふるふると頭を横に振るう。
「私、さっきまで瞬くんのずっと遠くから見てたのに。」
「…」
「今はこんなに…近い。」
それってすごく、素敵なこと。
「遠く、じゃない。」
「え?」
低い、やさしい声。
「俺は、ずっと悠里だけを見て演奏していた。」
「…え、うそ、目あわなかった!」
ライブ中、瞬くんと一度も目があったことはなかった、ハズ。
「そっ、それは、」
「それは?」
じっと瞬くんを目を見ればフイとすぐにそらされる目。
(あ、そういうこと。)
「ふふ、それじゃ目があうわけないね。」
「…ライブ中、悠里の目で見つめられるとベースどころじゃなくなる。」
なんて、おかしいことを言う。
瞬くんがそんなことでベースへの集中力を途切らせるわけない。
「それほど俺は悠里に溺れているってことだ。」
「っ、」
瞬くんは普段照れ屋なのに、ときどきすごく恥ずかしい言葉をくれる。
「…だから、ありがとう。」
「え?なにが?」
「祝いの言葉、ちゃんと聞こえていたからな。」
「!」
そう言って腕に力を入れ直す瞬くんは、心なしか少し大人びて感じた。
「おめでとう、瞬くん。」
#ナナおめっと!ナナのバースデーライブとか行ってみたいよ!
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