「さむい…」
「ん?」
ピューピューと風が吹く街道を歩いていると横から小さな声が聞こえた。
「瑞希くん、さむいの?」
「ん。」
あまり主張をしない瑞希くんが寒いと言うんだから本当に寒いのね。
っていっても私はそんなに感じないんだけど…。瑞希くん脂肪ついてないもんね。
「マフラー、はしてるか。」
「手袋も…バッチリ。」
「暖かそうなのにね。」
私のマフラーを貸してあげようかと思ったけど、瑞希くんはマフラーどころか手袋もイヤーマフも完璧装備。
こんなに防備してるのに寒いのね。でも外にいる以上、もう寒さは防げないし。
「じゃあはやく家に帰ろっか。」
家に帰ったら暖房で部屋を暖めよう。
暖まるまで瑞希くんにはお風呂に入ってもらって、その間に私は今買ってきた材料でおいしいご飯を作ろう。
「…それもいいけど、」
「うん?」
私の心を読んだのか、私の顔に書いてあったのか瑞希くんはポツリとそういった。
「今、悠里が抱き締めてくれたら…暖まるかもしれない…」
「抱きっ!?」
「うん。…はい。」
予想外の提案に声を上げるとクスクスと笑いながら両手を広げる瑞希くん。
「だっ!だってここ外だよ!」
「うん、しってる。」
「人がいっぱいいるし…」
「…独り言は恥ずかしくないのに?」
私の必死の制止に瑞希くんはなにか言ったのかは聞き取れなかったけど、広げた両手を戻すところをみると諦めてくれたみたい。
「…安心なんかさせない。」
その様子にふぅ、と息をつくとグイッとひかれる腕。
「きゃっ!?」
小さく声をあげた途端、鼻にぶつかるフワッとした感触。
(み、ずきくんの匂い…)
瑞希くんのマフラーだ、そう気付くのが早いかぎゅっと抱き締められる。
「…ほら、暖かい。」
「こっ、こら!瑞希くんってば!」
「大丈夫…誰もいないから。」
「そういう問題じゃ…!」
いくらじたばたと逃れようとしても見た目からはわからない強い力で抱き締められる。
「いいから…おとなしくする。」
「…もう。」
教師である立場なのに公共の場でこんなこと。
ダメだとわかっていても、この優しくて暖かい腕に包まれてしまえばもう抜け出すことなんかできない。
「あと少しで家つくよ?」
「…ん。」
「トゲーが待ってるでしょ?」
「今は…悠里とくっついてたい。」
そんな事をぎゅうぎゅうと抱き締められながら言われれば、キュンとしてしまう。
「僕…冬きらいだけど」
「悠里がそばにいるなら」
「ちょっと…好きかもしれない」
おでこや瞼にちゅっとキスをしながら言う瑞希くんをよそに、私は一人顔を熱くしていた。
(あ、あとお風呂は一緒に…ね?)
(わ、わかったからはやく家に帰ろう!)
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