「跡部、俺と付き合ってくれへん?」
忍足が、俺に好意を持ってるのはわかっていた。
だけど、
「少し、考えさせてくれ」
ただ、そう答えた。
忍足の、心が読めなくて、本心なのかわからなくて、傷つくのが怖かった。
それだけ。
そう答えて、暫くした放課後。
ふと忍足の教室を見た。
女と、2人。
忍足は楽しそう。
女はただ媚びている様で、気持ち悪い。
そして忍足が、女に何かを囁いた。
あの時の告白は、本心じゃないと決めつけた。
次の日忍足を呼び出して、答えを述べた。
「答えはNOだ。俺様はそこらの雌猫とは違うんだよ」
キツく言った。
忍足は、
「すまん、変な事言って。堪忍な」
あまり、顔に出していない。
どうせ、傷付いてないのだろう。
その日も、放課後忍足の教室を覗いた。
やはり女といる。
昨日とは違う雌猫。
来る日も来る日も、忍足は女といて、ただただ苛ついた。
ふと、廊下にあった鏡を見た。
表情は歪んでいて、辛そうだった。
俺は今、辛いのか?
どうして?
何かが、溢れ出した。
そして聞こえた、痺れる程の、重低音。
「跡部…?なんで泣いとるん?」
本当だ、泣いてる。
「何でも…ね…え」
「泣くほど気分悪いん?」
「違う!何しに来たんだよ!」
そう、忍足を睨みつけた。
「いや…跡部がおったような気がしよってん、やっぱりおった」
「どうでもいいだろ!お前はさっきの雌猫とでも居ろよ…ッ」
そう言って、ただ走った。
忍足は追いかけては来なかった。
霞む視界をひたすら走って、階段を踏み外した所で走るのをやめた。
「お…しった…りい…」
俺は忍足を傷つけた。
そしてその傷を抉った。
そしたら閉ざされたの君の心に、触れられると思ったから。
でも、触れることはできなくて、
嫉妬と恋慕が募るだけ。
自分に嘘をついただけだった。
「忍…足…ッ好き…だか…らあ…!」
途切れ途切れの、弱々しい自らの声が、誰もいない筈の廊下に響く、響く。
そして、不意に自分意外の声が響いた。
「今の…ホンマなん?…跡部…」
「お…したり…」
2人きりの廊下。
響いたのは、途切れ途切れの愛の言葉。罪に溺れて大空を見上げた。嗚呼、白黒。
(あなたを傷つける罪を犯した)
(僕は、嘘吐きで馬鹿な罪人だ)
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