語り「二人は薄暗い部室の中無言で寄り添い合い、時刻は午後七時を回るところでした」(暗転・語り退場)

忍足・跡部「…」

跡部「…」(忍足の肩にもたれ掛かる)

忍足「跡部?どないしたん」

跡部「ん…別に」

忍足「さよか」

跡部「ああ…」

忍足「なあ跡部、帰らん?もう七時やで。ええの?」

跡部「帰らねえ」

忍足「親御さん心配するやろ」

跡部「…しねーよ」(物惜しげに俯く)

忍足「なしてそう思うん?」

跡部「父様も母様も、俺なんか愛してねーもん」

忍足「…」(押し黙る)

跡部「父様が愛してるのは権力、母様が愛してるのは財産だ」

忍足「随分はっきり言い切れるんやな」

跡部「ん…」

忍足「…」

(暗転)

忍足「もう…八時なんやけど」

跡部「…」

忍足「見回り、来てまうで…」

跡部「いや、帰らねえ…」

忍足「さよか…」

跡部「なあ」

忍足「なん?」

跡部「俺のこと、好きか…?」(忍足の服の袖を掴む)

忍足「当たり前やん、大好きや」

跡部「愛してるか?」

忍足「勿論、愛しとる」

跡部「うん…」(額を忍足の肩に埋める)

忍足「跡部は、悲しいん?」

跡部「別に…悲しくはねえよ」

忍足「なら、どうして泣いとんの?」

跡部「泣いてねえよ…!」

忍足「跡部はひとりぼっちやないんに」

跡部「俺は誰からも愛されていない」

忍足「俺が愛しとる。さっき言うたやんけ」

跡部「違う。お前も、誰も彼も俺が居なくたって世界は変わらないんだ」

忍足「誰がそないこと言ったんや、俺はお前が居なきゃ生きてけへんよ」

跡部「嘘だ。居たら居たで嬉しくても、居ないと困る訳じゃあねえだろ」

忍足「跡部を要らない思っとるんは跡部やろ」

跡部「!」(忍足から離れる)

忍足「跡部は、俺の世界の核やから」

跡部「…馬鹿じゃねえの」(跡部退場・忍足立ち上がる)

忍足「跡部は、きっとまだ子供なんやね。大人になれば、世界の広さがわかるやろか」(忍足退場)

語り「世界の広さは価値観によってそれぞれ。貴方はこの世界を広いと感じますか。狭いと感じますか。どちらにせよ正解などありはしないのです。…さて。これでこの物語はお仕舞いです。闇が世界を包む前に…」(語り退場・閉幕)



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