なあ、景ちゃん。


聴こえる?俺の鼓動。






























「景ちゃん」

「…おいジロー!さっさと着替えてコートに出やがれ!」

「…シカトせんでや……」


俺の可愛い可愛いお姫様は今、絶賛不機嫌中である。
どんなに名前を呼んだってこっちを見向きもしない。


(いい加減閉ざしてまうわ…)


こうなったきっかけは、本当にしょうもないものだったのにね。




 ◆ ◇ ◆


「景ちゃん、キスしよ?」

「あーん?構わねえけど」

「なら…」

「ん…ふ…ぁっ」

「ん…っ」

「…は、は…、お、お前…」

「は…は、なん…?」

「意外…と睫毛長いんだな…っ」

「け、景ちゃんもしかして、キスしとる時目瞑っとらんのん…?」

「あーん?そうだけどよ」

「だめや」

「なんでだよ」

「キスしとる時は目瞑るのが決まりや」

「んなもん知るかよ、俺様に指図していいとでも思ってんのかよ!」

「景ちゃん!決まりは決まりや!指図とかとちゃう!」

「黙れ変態!もう知らねー」


 ◆ ◇ ◆





(キスできんとかいやや…)


強引にでも、仲直りがしたい。やり切れていない喧嘩なんだ、きっとすぐに仲直りが出来る。




「景ちゃん」

「…っ、おいおおと…」

「シカトすんなや景吾!」


柄にもなく怒鳴って、柄にもなく《景吾》なんて呼んだら、彼は本当に驚いたような顔をして俺を見た。


「なん…だよ…」

「ちょお、部室来い」

「…」


それでも黙って着いて来てくれるんや。きっとまだ希望はある。いやきっとやない、絶対に。





「なんだよ」

「ほんまに堪忍っ!」


手を合わせて勢い良く頭を下げた。何も、聴こえてこない。違う、俺の鼓動が疾走する音は強く耳に響いている。


「…くそ」


跡部が口を開いた。


「景、ちゃん…?」


跡部は、ぎゅっと目を瞑っていた。キスを、すればいいのだろうか。







――綺麗な、蜜色の髪を撫でながら後頭部を抑えるように抱き寄せる。そして、唇を塞いだ。

愛撫するように何度も触れて、柔らかな唇を舌で舐めて、口内を撫でるように探って、唾液を交換し、二酸化炭素を吸い合い。糸を引いて離れた唇を、惜しむようにまた舐める。


「…はぁ、おした」

「まだや、まだ目ぇ開いたらあかん」

「……ん…」



(とくん、とくん、とくん、)



ふたりの鼓動が、交わる。
遮られた視界。ふたりだけの空間が生まれる。ふたりだけの鼓動とふたりだけの息遣いだけが、耳を満たす。



「なあ、景ちゃん。聴こえる?俺の鼓動」

「ああ…」

「気持ち、良うない?」

「…気持ち良い……」

「目ぇ瞑ってキスするとな、相手だけを感じられるんや」

「ああ…」

「俺を、俺だけを感じてや」


ぎゅっと抱き寄せると、跡部も背中に腕を回してきた。


直に感じられる彼の熱に顔をうずめて、彼の匂いに染まって。


彼を身体いっぱいに感じて。







ふたりぼっちの空間が、

規則正しく鼓動する。






e.n.d..




_________________
あとがき
春休みというものが始まりました。これを読んでいる貴女はどのような春休みをお過ごしでしょうか。もうすぐ4月というのに、寒くて寒くてなりません。ですが、蕾を膨らませ、花を咲かせようと一生懸命の桜を見ると、美しい春を感じられますね。
今回、私が苦手で仕方がない甘甘に挑戦してみましたが、いかがだったでしょうか?きっと景ちゃんはそういう知識、全然無いんだろうなぁと思うとムラムラしてなりません。
…なんて考えながら携帯をぽちぽちぽちぽちしていたのですが、また「え、どこらへんが甘いの^q^」って現象が発生しました。てか私自身あまり甘い話を読まないのでよくわかりません。甘甘、勉強してきます。
うわ、あとがき長い!長々と見てくれてありがとうございました。
私、そして当サイトI・I・Iは貴女方の幸せを願っております。




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