唇の端に滲んだ血が、
その瞳から出る液に洗われた。
( 血混ざりの愛の唄 )
「ゲほっ、がはッ、ぁ…っ」
「跡部…」
ぐっと締め付けていた跡部の喉。手の力を弱めれば跡部は床に倒れ伏した。
酸素を求めて喘いだ口から唾液が垂れる。
「跡部…」
「じ…ガッ…げほッ…じろ…」
「…」
跡部は喉を震わす度に咳き込んだ。全ては俺が原因で。
叫び過ぎた為と吐き戻し過ぎた為の胃液が、跡部の喉を傷付けた。
俺が、跡部を傷付けた。
愛撫するように顎を伝う唾液を拭えば、跡部は猫のように目を瞑った。
唇の端が切れて血が滲んでいる。
俺の手には、殴った拍子についてしまった跡部の血があった。舐めてみると鉄錆の味がした。
「あとべ…?」
「…ん」
こんなにまで殴っても、締め付けても、跡部は逃げない。
もし逃げだしたら、俺の小さい体じゃ抑えられない。
痛いなんてわかってる。苦しいなんてわかってる。
でもこんな事でしか君に愛を伝えられない。もしかしたらこれは愛なんかではないのかも知れない。
でも、俺は跡部が好き。
好き好き好き好き好き大好き。
でもどんなに叫んでも、君はまだ俺から目を逸らす。逸らされた目をえぐり出してしまえば、俺だけを見てくれるのか。
どんなに叫んでも、俺の愛は届かない。
声を枯らして愛を唄っても、君には届かない。
「跡部…」
ぎゅっと跡部を抱き締めると、跡部は涙を流した。それが生理的なものなのかはわからない。
ただわかるのは、俺は跡部の視界にはいないということ。
E.N.D.
喉が裂けてまで叫んだ愛は
錆び付いたナイフみたいだった
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