「精市くんっ」


病院の庭にある花壇の花を、優しい目で見てる精市くんに声をかけ、小走りで寄っていく。
そんな私に気付いた精市くんは、優しく微笑みかけてくれる。

「おはよう、名前さん。早いね」

「おはよう。起きたのはさっきなんだけど、外見たら精市くんがいたから…」


あれから、私と精市くんはよく会って話すようになった。
精市くんは物知りで、趣味がガーデニングなだけあって花のことにはとても詳しくて、
病院に咲いてる色々な花を教えて貰ったりしている。
今病院には、桜が咲き誇っていた。


「桜、綺麗だね」

「丁度今が見頃だよ」


へえ、と相槌を打つと、ベンチに座ってる精市くんが隣にズレて私に座りなよ、と勧めてくれたので、精市くんの好意に甘えた。


「それにしても、今日は随分機嫌がいいみたいだね」

「そう思う?」

「ああ。とても嬉しそうだけど、何かあったのかい?」


俺がそう聞くと、名前さんはえへへ、とはにかんで見せた。それが普段の見た目よりも、とても幼く見えた(本当の年齢は、知らないけれど)。


「何だか、私が忘れてるだけなんだろうけど、こうやって人とお話するのが新鮮で嬉しくて、幸せなの」

精市くんと会ってから毎日が凄く楽しいの。そう続けた名前さんは、本当に幸せそうで、俺がそうさせてるんだと思うと何だか暖かくなれた気がした。


「俺も、名前さんと過ごすのは楽しいよ」


そう言って、初めて会った時のようにふわりという効果音が似合うように微笑む精市くんに、胸が締め付けられるような、そんな感覚がして自分が上手く笑えてるか不安になった。

あ、と精市くんが何かに気付いたように手を伸ばす。
その手が私に向かって延びて来るもんだから、少しびっくりして身体を強ばらせると精市くんは眉尻を下げて笑った。


「ほら、髪に花びらがくっついてたよ」

彼女から離れて見せてやると、丁度吹いた風に花びらを奪われてしまった。
まだ少し堅くなってる名前さんは、どこかぎこちなくそれを見届けた。


「あ、あり、がとう…」

俺が触れたとこを、彼女は慈しむようにしていた。









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