「…こんなとこにいたの」


後ろから、大好きな人の声が聞こえて、首だけ振り向くとやっぱりそこには大好きな人がいて。


「そんな格好では、風邪をひくよ」

「そしたら、幸村が看病してくれる」

「…、まったく…」


ほら。そう言って差し出されたのは1枚のコート。成る程、何か寒いと思ったらコートが無かったのか。
素直に、ありがとうと受け取ると、幸村は私の隣に腰を下ろした。

幸村こそ、風邪ひいちゃうよ。
私は特別幸村を見ることもせずに呟くように言う。


「そしたら、名前が看病してくれるんだろ」

「何それ…」



はぁ…っと息を吐くと、白い息が出てきて、それは暗い夜空に溶けていくように消えて見えなくなっていく。


「今日、」

私は幸村から渡されたコートを羽織り、もう一度マフラーに自分の顔を埋めた。鼻が寒い。


「星が、よく見える」


そう呟くと、幸村はあぁ、だから…と私のように、マフラーに顔を埋めて、目線を上に向けた。


「あれがオリオン座だね。冬の大三角も見える」

「うん…」



ずずーっと鼻水を吸う。あぁ、本当に寒い。

「ほら、身体ももう冷えてる。早く帰ろう」


まるで、小さい子を宥めるように、頭を撫でて、ね?なんて、彼女にすることじゃないでしょ。


「…幸村は、賢いから知ってるだろうけど」

私が空を見上げながら呟くと、幸村ははぁ…と白い息を出しながら溜め息をついて、ちょっとでも私が温かくなるようにと寄り添ってきた。


「今、見える星の光は、何万年、何億年も前の光なんだよ」


あんなに強く光ってる星も、弱々しく光ってる星も、きっと、全部。

「今この瞬間、あの星達が出した光は、何億年も経たないと地球にやってこないんだって」

「不思議だよね、その頃には、当時生きてた人もいないし、地球がなくなってるかもしれない」

「発信源の星ですら、消滅してるかもしれない」


手を伸ばしても届きそうにない。
彼らの光も、今の私には想像も出来ないくらい後にならないと届かない、のに。


「何でそこまで輝いていれるのかな」


幸村は、そうだね、と一言言っただけで他に何も言わなかった。ただ、さっきよりも幸村が少し近く感じた、幸村の体温が、安心させてくれる。


「私が星だったら、幸村に好きって伝えるのに何億年もかかるんだよ」

「…なら俺は、名前の告白を受けるのに何億年も待たないといけないね」

「……、待ってて、くれる?」

「待つ必要は、ないんじゃないかな」


突然、目の前が真っ暗になった(夜の暗い、じゃなくて何も見えない暗さ)。
それと同時にする、大好きな幸村の大好きな匂いがふとして、唇に柔らかい感触。
言うまでもなく、幸村とキスしてることが分かった。


「俺は、こんなにも名前の近くにいるよ」

「…っ、うん…」


でも、と言葉を続ける幸村。
私の視界に映るのは、さっきまであんなに語ってた星じゃない。


「君が望むのなら、」




君が光に託す想いを、
(俺はいつまでも待ち続けるよ)





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