「幸村なんて嫌いだ」


事の発端は、数時間前、俺が知らない女子に告白されたことから始まった、のだと思う。

彼女は独占欲の塊だ。

俺が誰かに告白される度にそう言う。
ただ、俺のことが好きなだけなんだ。

目の前に立って、教室で皆が見ている前でそう告げた彼女に、周りの反応はまたか、と感じているだろう(何て失礼な奴らだ)。俺に彼女がいることを知っていながら告白してくる奴らも馬鹿だが、俺が告白される度に彼女に嫌いだと言われることが好きな俺も、相当な馬鹿だと思う。だって、俺が彼女に愛されていると実感が出来るからね。

俺を嫌いだなんて言っておきながら、彼女は俺に抱きついてくる。その行動に矛盾を感じることは、ない。
胸の中でまた、幸村なんか嫌いだと言う彼女に愛しさが込み上げる。


俺のことを好きな女子の9割(10割でもいいかもしれない)は、彼女が嫌いだろう。彼女が俺を嫌いだと言う意味とはまるで反対の意味の嫌いだ。

俺は、スカートを凄く短くして、化粧をバリバリにしていたりする女子は好きではない。それもきっと好きな奴を思ってやってきていることなのだろうけれど。
だけど俺は、彼女のような、何も着飾っていない女性の方が好きだ、それでいて、凛としている。
女子が彼女を嫌いな理由は、彼女を大して可愛くも美人でもないのに、俺と付き合っている、それで釣り合っているのに、納得がいかないのだろう。
だけど俺は、彼女の美しさが分からない奴らの方に納得がいかない。
皆、彼女の独占欲の大きさ故に忘れていないだろうか、俺から彼女の美しさに惹かれて告白したと言うことを。


幸村、と俺を呼ぶ声。それに答えれば、彼女は俺から離れて(でもシャツの裾を掴んでいるその姿に俺は、)また口を開く。

「幸村のことを好きでいていいのは、この世で私だけでいい。皆に好かれる幸村なんて、大嫌いだ」


一度、彼女が女子に囲まれていたのを見たことがある。女の嫉妬は醜いとは、よく言ったものだ(彼女?彼女のは嫉妬ではない)。
大多数で1人を囲んで何を言い出すのかと思えば、アンタそのままだと、いつか幸村くんに愛想つかされるよと来たものだ。

彼女は独占欲の塊だ。
そんな彼女が好きな俺も、独占欲の塊だ。
でも皆彼女の独占欲の大きさ故に忘れていないだろうか。
俺が好きで、彼女に告白したのだから、俺が彼女に愛想つくすわけがないってことに(何て愚かな奴ら)。


俺が、「分かってる、そんな自分、俺だって嫌いさ。皆が好きなのは神の子。幸村精市を好きなのは、お前だけだよ」と言えば、彼女は満足そうに笑った。



それが彼女の愛
(嗚呼、何て心地良い)





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