私の春を青くしたひと
春は好きじゃなくて
アオはそう言っていた。
2年になって最初の席の隣のヤツは アオで。
アオの表情はどこか陰があった。
穏やかに笑っているように見えてなんか違う。
窓の向こうに見える葉だらけになった桜の木を見て小さくため息ついてたりして。
実の所アオのこの表情を見たのはその時が初めてじゃなかった。
入学してすぐの委員会だったかで見たから。
たまたま。
何となく同じ学年の他の浮かれた奴や、緊張してる奴とは雰囲気が違ったから少し印象的だった。
まぁそれが何ってワケでもなく、すぐに忘れてたけど。
でも2年で席が隣になった時、すぐに思い出した。
何だかんだ言って印象に残っていたのか。
その表情を見たのはあの時はあの1回だけだったが、今回は席が隣だから毎日目に入る訳で。
「何沈んでんだよ」
思わず声をかけてしまった自分に驚いた。
そしてその時のアオの返事が「春は好きじゃなくて」だったんだ。
「春は出会いの季節だって言うけど別れの季節でもあるでしょ?桜の花だって…綺麗だけどすぐに散っちゃうし。だからワクワクよりも寂しい気持ちになるから。変だよねぇ」
そう寂しそうに笑いながら言うアオに柄にも無く惹かれていた自分がいた。
何が、とかなんでとか言われてもわかんねえけど、そゆのってそんなもんだろ?
別にオレは春が好きだとか嫌いだとかはねぇけど。
何となくアオが春になっても幸せそうな顔をしていたらなとか思った。やっぱ柄にもねぇな。
まあそんな感じであの日から色々とアオと話すようになって。
葉だらけになった桜の木の下で昼飯も一緒に食ったりしたな。
あの時から丁度もう1年か
「でも今は春、嫌いじゃないよ」
そう言って幸せそうに笑うアオを見て思わず頭を撫でる。
いつでもどの季節でもその幸せそうな顔が見たかった。
「そら良かった」
これ本心。
でも照れくさいから上手く言えねぇけど伝わってると思う多分。
「ユキくんといると、ホッとする。心が暖かくなるの。でも色で言うと青かな、この春でも私にとっては青色なんだ」
「なんだよそれ。春と言ったらピンクとかじゃないのかよ、暖かいとは真逆だろ青は」
わかんねえって顔してるオレを見てアオは笑って、空を見上げた
「桜の花が散った後は寂しくて仕方なかったけど、ユキくんと一緒にここでお弁当食べたり話したりしてたらね…いいなぁって思ったんだよ。去年1回足が痺れて立てなかった時あったじゃん私。その時ユキくん手貸してくれたでしょ」
「あー…そんな事もあったな」
「うん。その時に見上げたユキくんと、葉っぱだらけの桜の木と青い空がすっごく綺麗だったの。全部が合わさって。それが凄くいいなって思って。それからあそこで一緒に過ごした時は先にユキくんが立ち上がるの待ってた。ユキくんを見上げるのが楽しみだったんだぁ」
片付けるのが遅くてトロいのかと思ってたけど、違ったのかよ!
なんだよ可愛すぎんだろ…
「そしたら寂しい気持ちが不思議と無くなって…単純でしょ?あんなに好きじゃなかった春が好きになったの、ユキくんのおかげだよ。ありがと」
そう言ってオレに抱きついてくる 名前が死ぬほど可愛い。
…言わないけど。いや、言えないだけか。
オレもアオの背中に手を回す。
「だからユキくんのイメージは青だなぁ」
「そうかよ」
「うん、青ってさぁ確かに暖色ではないけどさ。でも涼し気な雰囲気とかユキくんぽいし、落ち着くし、幸せの象徴の色なんだよ、青。まさにユキくんなんだもん」
言い過ぎだろって思わず出たオレの声に、そんな事ないよってアオは言う。
いや、言い過ぎだろ。
幸せの象徴の色ってなんだよ、オレは大層な人間じゃねーよ!オレは聖母マリアかよ!青い鳥かよ!
そもそもオレは鳥じゃなくて黒猫…それも違うか…まあいい
「それはどうも。 アオ位だよ、オレん事そんな風に言うのは」
「私だけでいいもん。ユキくんがかっこいいのは皆知ってる事だけどさ。皆の知らないかっこいい所、優しい所そういう所を知ってるのは私だけがいいもん」
そんなの、お前だけに決まってるだろーが
気になって話すようになって、お互い気持ちが同じだろうと感じて暫くしてアオに気持ちを伝えたあの日。
あのタイミングだったのはワケがあった。
別にたいした事じゃねぇかもしれないけど。
「ユキくん、好きって言ってくれたのまだ寒かった時だったけど、暦の上ではもう春だったんだよね」
「何だ気づいてたのかよ、春だったって」
「うん。なんでこのタイミングだったんだろうって思ったけど立春だったんだってちょっと後だったけど気づいたの。間違ってなかったみたいで良かった」
思わず抱きしめていた手をゆるめてアオを見る。
あの時アオも恐らくオレへの感情はオレと同じ類いだと感じたから、気持ちを伝えてアオの気持ちを確かめて。
そして一緒に本格的な春らしい春を迎えて、沢山楽しい思い出を作ったらもしかしたらアオは春も好きになって幸せそうな顔が見れるかもとか柄にもねぇ事考えて。
「満開の桜も散ってしまうのが寂しくて好きじゃなかったのに、今年は満開の桜を見た時いいなって思った。桜が散ってはらはら落ちるのも花吹雪も、寂しい、じゃなくて綺麗だなって思ったの」
そこには、全部ユキくんがいたから。
そう言って心底幸せそうな顔をするアオにたまらなくなって頬に手を添える。
アオがそっと目を閉じるからオレはそのままアオにキスをした。
「やっぱりユキくんは青だよ」
目を開けてオレを見上げたアオはやっぱりオレを青だと言う。
正直青でも何でもいいんだ。
アオが幸せそうに笑ってくれてるなら。
「来年も再来年もずっと一緒にいてくれる?ユキくんとずっと一緒にいたいよ…春ももっともっと好きになりたい、って言うのは言い訳。ただユキくんとずっといたい。ワガママだよね」
「ばーか。ワガママでも何でもねーよ。心配すんな。オレだってお前といたいんだ」
この締まりの無い顔を見られないように抱きしめながらオレはそう言った
もっと幸せにするから、寂しい顔なんてさせるか
ずっと幸せそうな顔して笑ってろ
そやってずっと居られるように楽しい事沢山して行こう
ロードがあるからたいしたことはできねえけど
それでも精一杯幸せにするから
…なんて小っ恥ずかしいから言わないけど、いつか言えたらとは思う。
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黒猫様に提出させて頂きました。
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