期待してもいいですか?

ザワついてた教室が静まり返る
私のクラスに有名人が来たからだ

3年生の新開隼人先輩

この学校に知らない人はいない位の人
自転車競技部でとても強い人

密かに憧れてる先輩が教室にいる
女の子達がざわめく

自転車部の人、このクラスにいたっけ?
なんてぼんやりと考えていた

「おめさん」

誰かを呼んでるみたいだけど、皆ピンと来なくて顔を見合わせる

「おめさんだよ、アオちゃん」

アオちゃんか…って、え?
アオって名前はこのクラスには私しかいないのに!

「わ、私…ですか?」
「そう言ったと思うけど」

そう言って笑う先輩に思わず見とれてしまう

「なぁ、来週土曜日にレースがあるんだけど見に来てくれないか?」

なんて新開先輩が言うから、空耳か幻聴か頭がついていかなかった

私が答えられないでいるとが「用事でもあるのか?」なんて言うから、慌てて首を振った

「そうか。じゃあ詳しい事は連絡するよ。おめさんの連絡先聞いてもいいか?」

「はい!全然構いません!」

LINEと電話番号を交換したら、先輩は「また連絡するよ」と去っていった

じっと様子を伺ってたクラスメイト達から、からかわれて大変だった

「ねえ!?新開先輩と知り合いなの!?」
「レース見に来てだって!連絡先交換してだって!」
「凄い凄い!超有名人じゃん!!」
「えー!羨ましい!凄いねアオちゃん!」

囃し立てるクラスメイト達を他所に私は机に突っ伏した


憧れてた先輩
ただただ憧れで終わると思ってた
私の存在なんて知られる事もなく、そのまま卒業しちゃうんだろうななんて
いちファンとして、知られる事もなく終わる小さな小さな恋心

なのに、私の存在どころか名前も知っててくれたなんて驚きしかない

レースは来週の土曜日
詳しくは連絡すると言ってくれたな


そしたらその日の夜にLINEが届いた

たわいのない話をいくつかして、次の日も同じ
その次はお昼一緒にどうかと誘われた
屋上で待ち合わせて行けば先輩はもう来ていて

まともに話した事ないからしどろもどろ

学校ですれ違うか、先輩の部活をこっそり見に行く位でしかなかったのに今は隣にいるから不思議でしかない

何で私を知ってるのかとか色々聞きたい事ばかりだったのに話題豊富な先輩の話を聞いてばかりだった
カッコイイ顔、カッコイイ声
近くにいると思うとドキドキして苦しい

「アオちゃん、何でオレが誘ったかわからないか?」

不意に言われた言葉に胸が弾む
そんなのわかるわけない!なのに、何かあるのかな

「全然わかりません。先輩、私の事知らないと思ってたから…」
「知ってたよ」

去年から、と先輩の言葉にハテナしかない

「そんなに前から…?」
「ああ。素直に可愛いなって。いや、それだけじゃないけど」

それは何か教えてくれなかったけど、そんな風に言われたら期待してしまう

もしかしたら私の事、少しは好意的に見てくれてるんじゃないかって

手の届かない雲の上の存在の先輩が隣にいて、飛び上がりそうな嬉しい言葉をかけてくれて

普通の女の子は期待してしまうよ

もしかしたら、両思いになれるのでは
先輩の彼女になれるのではないか…って


夢見すぎって笑われるかな?
だけど、そんなシンデレラストーリーを夢見てしまう乙女心なのです

そんな風に聞いたら引かれてしまうかな?
それでも聞きたくて喉まで出かかってるのを堪える

「レースが楽しみだ」
「へ?」
「だっておめさんが見に来てくれるから」

いつも以上にやる気出る、なんて

ほら期待しない人なんていないでしょ?



放課後も何となく見に来てしまった
ギャラリーが多いから目立たないと思う

東堂先輩のファンがあそこに沢山いる
1年の真波くんのファンもあそこにいる

他の人のファンもいる中で

「新開くんカッコイイよね」
「バキュンしてくれないかなぁ」
「あー今日もカッコイイ」
「差し入れ、受け取って貰えたー!」


なんて新開先輩のファン…ファンなのかガチ恋勢なのか、ライバルが多い
どの学年にも満遍なくいるライバル達

私もあの中の1人なのは今は変わらないかもしれないけど…

それでもあの言葉に期待してしまう

たまたまだったら、気まぐれだったら
それとも単純バカな私だからからかってるだけだったら

そうだったら悲しいね

それでも先輩はそんな人じゃないはず…と自分に言い聞かせた

自転車に乗った先輩が私の前を通り過ぎる

一瞬、一瞬だけどこっち見て笑った…よね?

周りの人もざわめく
きっとみんな同じように思ったんだろう

その日LINEで「来てただろ?すぐ見つけたよ。ありがとな」って来てやっぱり期待せずにはいられなかった


次の日もお昼を一緒に食べたんだ

「先輩、すごい量ですね」
「すぐ腹が減るんだよ。動くからかな?」

なんて言うから

そういや部活の時も何か食べてますもんね、カロリーメイトみたいなやつって言えばあれはパワーバーと言うみたい

沢山食べる先輩を見て

「お弁当作ったら食べてくれますか?」

なんて思わず口にしてしまった
料理が超得意という訳では無いけれど、人並みだけど
先輩の為なら早起きして作っちゃう

だけど馴れ馴れしすぎたかな
いきなりお弁当だなんて…
先輩が優しいから調子に乗ってしまったかも

「いきなり過ぎますよね、嫌なら言ってくださいね」

私が慌てて言えば先輩が噴き出した

「いや、嬉しいよ。作って来てくれよ、弁当」
「いいんですか!?」
「いいに決まってる」

明日もレースの日も頼んでもいいか?

先輩の言葉に私は勢いよく頷いた


その次の日、お弁当を渡せば喜んでくれた
自分で買ってきたパンや差し入れなんかもあったけど、私のお弁当を1番に食べてくれたんだ

「美味いよ」って笑う先輩を見て作ってよかった…って心底思ったんだ

レースの日はもっと気合い入れよう…なんて心に秘めたり

それにしてもレースの日はきっとギャラリーも多いんだろうな…
私以外にも誰か呼んでるのかな?

新開先輩に片思いしてるって噂の、3年生で1番美人な先輩とか、ふわふわ可愛い1年の女の子とか…

「先輩」
「ん?どうした?」
「他にも誰か呼んでますか?」

私が言葉足らずだったからか先輩が頭にはてなマークを浮かべてそうな顔をする

「レースの日…その」
「ああ、そういう事か。いやアオちゃん以外呼んでないよ」

少し眉を下げて言う先輩
そんな顔もかっこよすぎるなんてズルすぎる

もうやっぱり期待しかないよ
先輩、もっとどんどん攻めていいですか?
こんなチャンスきっと一生ないし、ここで引いたら一生後悔すると思うから



レースの日は案の定ギャラリーが沢山いた
美人の先輩もふわふわ可愛い1年の子も

先輩は呼んでないって言ったから
多分きっと呼んでないと思う
だから普通に見に来た…んだよね

作って来たお弁当を抱えて、ゴール前を陣取る

先輩が教えてくれたベストポジション
きっと1番でゴールするんだろうな

そしたらやっぱり1番で帰ってきた先輩
鬼気迫る姿に体が震えた
ちょっとこわいけど、それでもかっこよかった
好きだとどんな姿でも心臓が撃ち抜かれるんだね

ゴールして先輩の自転車が止まる
私の方を見て

「バキュンポーズだ!!」
「え?私?」
「私かな!?」
「え、私だよ絶対」

と周りがざわめいた

私も「自分だ!」なんて思ったんだけど…
周りがライバルだらけで自信がない

だからなんの反応もせずに突っ立っていたら、先輩がこっちに向かってきた

真っ直ぐに、私の方に

「来てくれてありがとな」

そう言って私の髪を撫でる先輩
もう周りの雑音なんて聞こえない

「かっこよかったです…!!」
「そうか」

と笑う先輩は世界一かっこよくて

「なぁ、おめさんが好きだよ」

先輩の言葉が、初めて声をかけられた日のように空耳か幻聴にしか思えなくて頭が混乱した

だけど、後悔はしたくないから

「先輩、先輩の言葉に女の子はみんな期待してしまいます。私は先輩の彼女になれますか?」

私、先輩が好きです

そう言えば先輩はいつの日みたいに噴き出した

「オレはおめさん…アオちゃんが好きだって言ってるだろ。付き合って欲しい」



その言葉に頷けば、世界が変わったみたいに周りの声が聞こえてきた

歓声と悲鳴と

周りを見渡して、先輩の顔を見ればこれは現実なんだと今になって実感が湧いてきて恥ずかしくなって俯いた

そしたら先輩に抱き寄せられた
先輩の片手には私、もう片方は自転車を支えて、フェンス越しだから前のめり気味だけど先輩の身体は凄くしっかりしてるからそのまま私を受け止めてくれた


「表彰式が終わったら弁当一緒に食べような。楽しみにしてるよ」

期待してた甘い言葉じゃなくて笑ったけど、それでも今は嬉しくて私は頷いた



その後、一緒にお弁当食べて一緒に帰ったんだ

「先輩、思わせぶりな態度とるから期待してしまって大変だったんですよ」
「思わせぶりじゃないさ。ストレートに行ったつもりだよ」
「皆にそうなんじゃないですか?」

私がそう言えば先輩は困ったような顔で笑う

「おめさん、オレのイメージ悪すぎないか?レース見に来て欲しいなんて好きな子にしか言わないよ」
「でも何で私なのか不思議で仕方ないです」
「それはまたちゃんと話すよ。でもアオちゃんが好きなのには変わらない。いつも見に来てくれてたの、オレの事だったなら嬉しいけど」
「先輩ですよ!先輩を見に行ってたんです。気づいてくれてたんですね」
「ああ、その時には好きだったから」

先輩が言葉の爆弾を落としまくるから、私は恥ずかしくなって俯く

そしたら先輩は私を抱きしめて「可愛い」なんて囁くから、私はますます恥ずかしくなって先輩の胸に顔を填めた

なのに先輩は私の顔を上げてくる
先輩と目が合えばとても優しい顔をしていて

「おめさんが好きだよ」

そう言って近づいてくる先輩に、その先も期待していいですか??



私の期待通りだったかは、2人だけの秘密





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