愛の喜び

「わぁ!アオちゃん凄いねぇ」
「葦木場くん、漢字の小テスト10点だっただけだよ」
「でも満点でしょ?凄いと思う。オレ、9点だったし」
「たった1点差じゃん」

私の事を小学生に褒めてるみたいな褒め方をするのは、同じクラスの葦木場くんだ

何時だったか…朝の部活中の葦木場くんが自転車から落ちてケガした時に、たまたま通りかかってハンカチ貸してあげた時だったかな

「大丈夫??ちょっと擦りむいてる!」
「大丈夫!よくある事だから」
「でも血が出てる。ちょっと待ってね!」

そう言って持っていたハンカチで葦木場くんの膝に着いた血を優しく拭った

「このハンカチ今日まだ使ってないから、綺麗だから安心して」
「そんなの気にしないよ。それよりも、綺麗なハンカチ汚しちゃってごめん」
「気にしないで。それよりも葦木場くんの自転車乗ってるの間近で見るの初めてだったけど…かっこいいね」
「かっこいい??」
「うん、何か朝はよく見かけるけどさ。いつも一生懸命で偉いなぁって思ってたんだ」


そう言ったあの日から、同じクラスでもそんなに話した事がなかった葦木場くんに何故か懐かれてやたら話しかけてくるようになった
背が高すぎるから見上げるのが大変だと思ってたら、屈んで話してくる葦木場くんは何となく可愛くて憎めない

それに何だか癒されるんだよね
ニコニコしてるし優しいし
なのに自転車乗ってる時はかっこいいって事に最近気付いたんだ

車よりも速くて大きく感じるその姿を、朝の通学時に見るのが楽しみになっていったのは内緒

「ねぇねぇアオちゃん」
「ん?なにー?」
「オレの誕生日覚えた??」
「ん?ああ!明日でしょ。この間言ってたね」
「でさ、プレゼント欲しいんだけど」
「何が欲しいの??」
「んー、何でもいい。アオちゃんが考えてくれたのなら 」
「それ1番難しいやつ!」
「楽しみにしてるねぇ」

そのまま鼻歌を歌いながらさっさと行ってしまった葦木場くん
人の話聞いてないし…
しかも何がいいのかさっぱりわからないよ

そう言えば朝にお腹空いたってよく言ってるな…
と思って、単純な私はお菓子作りにする事にしたんだ
だって物とかわかんないし、きっと葦木場くんなら喜んでくれると思うし安上がりだし

とりあえず夜な夜なお菓子作りをして
器用でも不器用でもない私が作った普通のお菓子
それでも一応可愛く作れたかなと思う

ラッピングもちゃんとして次の日、葦木場くんの朝練後に渡す約束をしていて
指定された待ち合わせの場所は自転車部の部室前
ドアから顔を出した葦木場くんに手を引かれて部室に入る


「ねぇ、葦木場くん私が入って大丈夫!?」
「大丈夫だよー!ねぇ、プレゼントくれる??」
「うん。はいこれ…葦木場くん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう…!!」

嬉しいと言うのが伝わる笑顔が嬉しいな
ウキウキでリボンを解いて中身を見る

そして「わぁー!凄い…」そう言って驚く葦木場くんは表情がコロコロ変わって面白い

「クッキー沢山入ってる!!ピアノ、音符、キリン?に自転車…!!凄いね!凄いよアオちゃん!全部オレの好きなやつ」
「葦木場くんぽいの作ったんだよ。味は普通に食べれると思う」
「食べるの勿体無いけど…頂きます。……美味しい!」
「本当に?良かったー!」
「凄いよアオちゃん!見た目も綺麗で味も美味しいし…オレ、今日の誕生日が今までで1番幸せかも!」
「大袈裟だなぁ」

私がそう言えば葦木場くんは急にキリッとした顔になって思わずドキッとした

「大袈裟なんかじゃないよアオちゃん。オレ、好きな子に誕生日祝って欲しかったんだ」
「えっ…」
「塔ちゃんやユキちゃん達にはもう寮で祝って貰えたし…家族からはメール来た。後はやっぱりアオちゃんに祝って欲しかったから嬉しかったよ」

ありがとう…って柔らかくほほ笑む葦木場くんを見て、今まで気のせいだと思っていた感情が確かなモノになってしまって心の中で戸惑う

「オレ、アオちゃんが好きだよ」
「なんでっ」
「何でって…アオちゃんにとっては何気なしに言った言葉だったかもしれないけど、ちょっと落ち込んでた時に褒めて貰えたのが嬉しかったから…あと顔も可愛いから好き」
「な、なに!恥ずかしい事言わないでよ!」
「オレはうそはつかないよ!!」
「そうですか」
「アオちゃんはオレのこと好き?嫌い?」
「…好きだよ」
「付き合ってくれますか?」


私が小さく頷けば、葦木場くんは真剣な顔をしていたのに、嬉しそうに笑った

「アオちゃん、オレ最高のプレゼント貰ったよ」
「なにそれ」
「抱きしめていい?」
「どうぞ」

葦木場くんは屈んで、私を抱きしめた

「アオちゃんが作った美味しいクッキー貰ってさ、おめでとうって言って貰って。それで大好きなアオちゃんも手に入ってオレは本当に幸せだよ」

「そっか、なら良かったよ」

「オレ今頭の中でクラシックが鳴ってる」
「クラシック?どんな?」
「愛の喜び!」
「どんな曲だっけ??わかんない」
「そう…じゃあ2限目音楽でしょ?その時弾いてあげる!!」

その音楽の授業が始まる前に葦木場くんがピアノを弾いてくれた

「オレの恋人のアオちゃんの為に、愛の喜びを弾きまーす!」

なんて皆の前で宣言してしまったから、その日の内に学校中に付き合ったのがバレて皆にからかわれて…
ヤレヤレとため息をつきそうになったけど、葦木場くんの嬉しそうな顔を見てたらまぁいいか…なんて思ったりして


私の為に弾いてくれたと言うピアノはとても綺麗で、私は誕生日でも何でもないのに思いがけないプレゼントを貰ったなって思った



HappyBirthday
葦木場拓斗くん


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