頑張るあなたに(荒北)

社会人になって数年目。今日私は誕生日を迎える。


高校、大学と祝ってくれる友人たちと気軽に会えた学生時代は誕生日を迎える度に嬉しかった。
お誕生日は何歳になっても嬉しいものだと思っていた。
事実、子供の頃、父や母の誕生日をお祝いしても、とても喜んでくれていたし、ケーキも食べれてみんな幸せだった。

しかし、社会に出て会社で過ごす誕生日を何度か迎えるうちに、嬉しさがすり減っていった。
会社の同僚は誕生日教えあうわけでもないし、私も他の人の誕生日は知らない。仲の良い同期からのお祝いメールはくるけど、フロアが違うから会う機会がほとんどない。

だけど、誕生日のその日は、内心ソワソワしてしまう。誰かが誕生日に気付いてお祝いしてくれないかなーと。
でもそんなことはなく、毎年いつもと変わずに仕事をこなす一日で終わる。

え?祝ってくれる彼氏?しばらくいませんけど?
それに誕生日がめでたい歳でもなくなってきている。


今年の誕生日は、せめて残業だけはしまいと、心に固く決めて黙々と仕事に取り組む。

17時。就業時刻まで30分を残すところで、残業をしないで帰るという希望は絶たれた。

同じ部署の荒北さんから、急ぎの仕事の手伝いを命じられた。…荒北さんの鬼。
怖くて絶対に本人には言えないけど。

引き出しにストックしておいた栄養補助食品で小腹を満たしながら仕事をこなす。
一人、また一人と、お先に失礼しますと、みんなに声がけして帰って行く。
21時を回って、ようやく終わりが見えてきた。

「山田さん、ドォー?終わりそォ?」

荒北さんが、私の席まで来て尋ねる。

「あ、はい。だいぶ終盤まできてます」
「…残らせちまってゴメンネェ。せっかくの誕生日なのに…」
「はい。大丈夫です…って、え?何で荒北さんが私の誕生日を知って…」
「社員証。裏に誕生日書いてあンだろ?…前にたまたま見えたから……覚えてたンだヨ」

そういえば書いてあった気がする…入社以来、首からストラップで下げているだけの社員証。最近は後ろ側をろくに見ていないから忘れていた。

「…そうだったんですね。誕生日に仕事なんて普通のことなんで、慣れてます。でも今日くらいは残業せず、早く帰れるように仕事頑張ってたんですよ。まぁ、祝ってくれる彼氏もいなんですけど…」

ちょっとトゲのある言い方になってしまったけど、真面目に残業もこなしているんだから、これくらい、いいだろう。

「…やっぱ山田さん、彼氏いねーンだなーーーオレがわざと残業押し付けて、山田さんが帰らないようにしたって、言ったら信じるゥ?」
「へ?それってどういう…」
「誕生日おめでと。ほらヨ。誕生日ケーキ。食いきれネーだろォから、ホールじゃねぇけどォ」

私のために荒北さんが、ケーキ買ってくれたの?
…しかもここのお店のケーキ、会社の近くだけど、すぐに売り切れてなかなか手に入らないのに…
ケーキの入った箱を凝視する私に、荒北さんがいう。

「アー、昼休みに買って、さっきまで冷蔵庫に入れてたやつだかンねェ」

何も喋らない私に、荒北さんが言う。人に残業させて、買いに行ったと怒っているとでも思ったのだろう。
メールや電話ではなくて、直接祝ってもらえて、涙が出てしまった。

「っな!泣くほど怒ってンのォ?!」
「や、違うんです…荒北さんに直接祝ってもらえたのが嬉しくて……ダメですね。年々涙腺弱くなってるんです」
「……自分の気持ちに正直でいいんじゃナァイ?」

荒北さんが私の頭を優しく撫でてくれる。だけど、今は逆効果です。優しくされたら更に涙が出そう。

「アー、ケーキ食って、さっさと仕事終わらせたら、メシでも食いに行こォぜ。
山田さん……アオチャンのこと、もっと知りてぇし」
「……私も荒北さんのこと教えて欲しいです」

ケーキの箱を開けて、季節限定のケーキにおめでとうのプレートが付いているのを見て、また涙が出てきた。




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