万物流転 | ナノ
36.つきかげ4
バシャバシャとお湯を泡立たせながら僕が浴槽から出ると、その波にロンが飲まれて彼は泡だらけになってしまった。心の中でごめんねを言って、それでも僕は泡だらけで濡れた身体のまま出入り口の側に立つセドリックに向かって叫んだ。

「あぁ。…きっと、僕の考えとハリー、君の考えは同じだと思うよ」

彼は静かに答えた。「そんな!…まさか!」僕はその驚きのあまり、思わずまだ浴槽に使っているであろう親友の姿を振り返った。「え、ええ?どうして僕なんかを見詰めるのさハリー?」ロンは、まだ卵の歌の謎が分かっていないみたいで、状況が掴めずに狼狽えた。

マートルはにやにやとした嫌な笑みを引っ込めようとはせず、ロンの頭の上をくるくる弧を描きながら漂っていた。時折、非常に愉快そうに高笑いをして、その声が浴室に響いて、ガンガンと僕の頭を殴った。

ザブザブと閉じた卵を腕に抱えながらロンが湯から上がった。そして、立ち尽くす僕に、浴室の隅に積まれていた白いタオルの山から二つ取って渡してくれた。ありがとう、と力なく言う僕の肩に手を置いたロンは「何かわかったのか?」と聞いた。

「…うん。良いことがひとつと…悪いことも、ひとつ」
「え!」

セドリックは僕らの着替えを持って近寄ってきた。「ロン、取り敢えず向こうで着替えておいで」何気なく、落ち着かせる笑みを携えて彼は言う。そんなセドリックの言葉に素直に従ったロンは、僕に心配そうな視線だけを投げて寄越して、彼から着替えを受け取ると、衝立ての奥へと歩いて行った。

「レイリはこのことを知ってるの?」神妙な面持ちで僕が声を落として言うと「いや、僕からは言っていないよ。…多分、知らないと思う」と祈るような目で、そして、どこか確信めいた目をしてセドリックが言った。

どうしよう。僕は彼に言うべきだろうか。でも、僕は、ロンに必要以上に恐がってほしくはない。それに、ハーマイオニーにだって、心配をかけたくない。

こんなに寒いのに、氷のような湖に一時間。ダンブルドアが僕らを死なせるようなことは決してないだろうとも思うけど、あの歌がただの脅しじゃなかったら?本当に、奪われた僕の大切なものが、帰って来なかったら?――そう考えるだけでも、僕には十分恐怖だった。

僕は、これの告知の時のダンブルドアの言葉は、ただの脅しだと思っていた。年齢線のこともまた、然りだった。けれど、でも…ここ数週間、このトーナメントについて調べて分かった。このトーナメントはとても危険で、歴代の代表選手の中には帰らぬ者となった選手が少なからず存在することを。

「そう言えば…この間、」

マートルが僕とセドリックの間に流れる、重く暗い空気を割って入るような言い方をしてひゅっと近寄ってきた。「詰まった排水管をぐるぐる回っていたら…ポリジュース薬が詰まってるのを見たんだけど…」意地悪そうな目付きでそう言った。ロンが着替え終わって、衝立ての奥から帰ってくるのを見計らって、彼女は尚も言葉を続けた。

「あんたたち、また悪さしてるんじゃないでしょうねぇ?」

「それは…もう、止めたよ」
「君のいるトイレには、ほら、僕らは行けないだろ?…男だしさ」

セドリックのことを伺いながらぼそぼそ言う僕の台詞を補うように、ロンがマートルに向かって強い口調で話した。「前はそんなこと気にしなかったじゃない。しょっちゅうあそこに来てたのに」と惨めな声を出して鼻をグズらせた。

ロンが「ハリーも着替えて来いよ」と僕に着替えを押し付けて背中を押す。そして彼はぶつぶつと文句を垂れるマートルに向かってあれやこれやと言い訳を並べていた。それを目尻に僕は着替えを持って衝立ての奥まで歩いて行った。

衝立ての反対側から、セドリックの声が聞こえた。「僕のことは気にしなくてもいいよ。…ほら、レイリから少し聞いていて、事情は把握してるから」僕らを気遣うように彼は言ってくれたが、何とも気まずかった。だってセドリックは僕より上級生で監督生だ。

レイリ先輩に知られたのは仕方のなかったことだとしても、他寮の…それも、自分が憧れを抱いている先輩に、女子トイレに入り浸っていた経験があったことを知られたくはなかったな。

過去の自分の行動に、こんな形で後悔を覚えたのは、この学校に来てからはじめての経験だった。

20131215
20131225
title by MH+

*ハリー視点はここで一旦終り!
[top]