9.おうえん3
可愛い妹のジニーが、大きな箱を持って俺たちの部屋へとやってきたのは、休暇が始まって三日目の朝のことだった。ジョージはと言えば、昨日徹夜して『カナリア・クリーム』の量産を行っていたため、今はぐっすりと分厚い布団を鼻の上まで掛けて眠っている。
目覚めた時に、視界いっぱいに俺たち家族の象徴とも言える長い赤毛が広がっていたのには、驚いたね。他の誰かを俺が部屋に連れ込んだ記憶もなければ、同室の誰かが連れ込んだとも思えず、寝起きで上手く作動しない脳味噌をフル回転させて、それが妹のジニーだと分かるまで、俺フレッドはしばらくボーッとしていたのだ。
「フレッド!大変よ大変!」
ジニーは、まだ眠っているジョージや、隣りのベッドで熟睡するリーに気を遣っているのか、声を潜めて俺に迫ってきた。元は白い色をしていたのだろうと思われる、黄色く色褪せてしまった少しに頼りない大きめの箱を俺の腹へとぐいぐい押しやって、ベッドによじ登った強引な妹は、天蓋のカーテンを引いて二人だけの空間を作った。
「こんな朝はひゃくから、どうしたってんだ?」
「欠伸してる場合じゃないわよ、フレッド!これ、これを見て!」
朝早くと言えど、時計は八時を過ぎており、大概の生徒は大広間での食事を済ませているか、食べている時間帯であろう。
やはり、声を潜めながら箱を結んでいた淡いピンクのリボンを解き、中身を見よ!と言う妹に促されて、俺は箱の中にあった純白の滑らかな生地を手に取った。
「ん?…これは――よかったな!ジニー新品同様のドレスじゃないか!」
俺がそれを確かめるように、箱から引っ張りだして、それをベッドいっぱいに広げると、ふわっと空気を孕んで膨らみ、まるで粉雪のようにきらきらと光る生地のドレスが、ゆっくりと真紅の布団カバーの上に流れるように着地した。
「これ、ママのお古なのよ、フレッド。兄さんは信じないでしょうけど…そう添えられた手紙にそう書いてあったもの」
「エェ!こんな細いドレスをママが着られるとは思えないよ!」
「しっ!静かにして!ジョージが起きちゃうでしょ!」
ぱくっとジニーのまだまだ小さい手が、俺の口を両手で塞いだ。そして、丁度その時、仰向けで眠っていたジョージが寝返りを打って、枕に顔を埋めたのだった。その様子をじっと見つめている妹は、ふぅと息を吐いた。あ、あのですね、ジニーちゃん。鼻まで塞がれたら、兄さん窒息しちゃうんですけど!
「ふぉれで、なにがふぁいへんなんだ?」
「あぁ、ごめんなさい」と言ったジニーはようやく手を離してくれた。視線を俺とドレスと箱に、うろうろとさせた妹は「それがね、」とまた小さな声で話し出した。
「これ、私宛てのドレスじゃないの。もちろん、私のドレスはパパが素敵なものを用意してくれたわ!…でも、このドレスはママが送ってくれたもので…その、あたし――」
いつものハキハキとした妹は、何処へやら?今俺の目の前にいるジニーは、いつにも増してこれから告げることが、俺や特にジョージに言い辛そうに、歯切れ悪く言い淀んでいる。俺は焦らず、ジニーの言葉を待った。
「レイリ先輩が、ドレスを準備する余裕がなかったからって、パーティーへの参加を拒んでるっていうのをアリシアがケイティに話してるのを聞いちゃって…」
「おい、ちょっと待てよ? それなら、レイリはヤツの申し入れも断ったってことか?」
「やつって?」
「何をおっしゃいますか、妹君!ハッフルパフの王子こと、セドリック・ディゴリーの穴熊男に決まっているじゃないですか!」
そこで一つ、疑問が生じ妹に尋ねると「えぇ、まぁ…そういうことになるわね」と言う同意が帰ってきた。となれば、ヤツとレイリの噂に振り回されて、まるで燃えかすのようになっちまった俺の片割れにも、まだチャンスはあるってことだよな!
「それでね、あたしが先輩のことを手紙に書いて送ったら、これが届いたってわけなの」
「それじゃあ、このドレスをレイリが着るってわけか…」
「…どうしよう、ねぇ、フレッド。あたしって、お節介かなぁ」
不安そうに尋ねる妹の髪の毛をかき混ぜるように撫でてやると、非難する声が腕の中から聞こえてきたけど、今は無視だ。
「いいや!最高の妹だぜ!」
20130914
title by MH+
*フレッド視点
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可愛い妹のジニーが、大きな箱を持って俺たちの部屋へとやってきたのは、休暇が始まって三日目の朝のことだった。ジョージはと言えば、昨日徹夜して『カナリア・クリーム』の量産を行っていたため、今はぐっすりと分厚い布団を鼻の上まで掛けて眠っている。
目覚めた時に、視界いっぱいに俺たち家族の象徴とも言える長い赤毛が広がっていたのには、驚いたね。他の誰かを俺が部屋に連れ込んだ記憶もなければ、同室の誰かが連れ込んだとも思えず、寝起きで上手く作動しない脳味噌をフル回転させて、それが妹のジニーだと分かるまで、俺フレッドはしばらくボーッとしていたのだ。
「フレッド!大変よ大変!」
ジニーは、まだ眠っているジョージや、隣りのベッドで熟睡するリーに気を遣っているのか、声を潜めて俺に迫ってきた。元は白い色をしていたのだろうと思われる、黄色く色褪せてしまった少しに頼りない大きめの箱を俺の腹へとぐいぐい押しやって、ベッドによじ登った強引な妹は、天蓋のカーテンを引いて二人だけの空間を作った。
「こんな朝はひゃくから、どうしたってんだ?」
「欠伸してる場合じゃないわよ、フレッド!これ、これを見て!」
朝早くと言えど、時計は八時を過ぎており、大概の生徒は大広間での食事を済ませているか、食べている時間帯であろう。
やはり、声を潜めながら箱を結んでいた淡いピンクのリボンを解き、中身を見よ!と言う妹に促されて、俺は箱の中にあった純白の滑らかな生地を手に取った。
「ん?…これは――よかったな!ジニー新品同様のドレスじゃないか!」
俺がそれを確かめるように、箱から引っ張りだして、それをベッドいっぱいに広げると、ふわっと空気を孕んで膨らみ、まるで粉雪のようにきらきらと光る生地のドレスが、ゆっくりと真紅の布団カバーの上に流れるように着地した。
「これ、ママのお古なのよ、フレッド。兄さんは信じないでしょうけど…そう添えられた手紙にそう書いてあったもの」
「エェ!こんな細いドレスをママが着られるとは思えないよ!」
「しっ!静かにして!ジョージが起きちゃうでしょ!」
ぱくっとジニーのまだまだ小さい手が、俺の口を両手で塞いだ。そして、丁度その時、仰向けで眠っていたジョージが寝返りを打って、枕に顔を埋めたのだった。その様子をじっと見つめている妹は、ふぅと息を吐いた。あ、あのですね、ジニーちゃん。鼻まで塞がれたら、兄さん窒息しちゃうんですけど!
「ふぉれで、なにがふぁいへんなんだ?」
「あぁ、ごめんなさい」と言ったジニーはようやく手を離してくれた。視線を俺とドレスと箱に、うろうろとさせた妹は「それがね、」とまた小さな声で話し出した。
「これ、私宛てのドレスじゃないの。もちろん、私のドレスはパパが素敵なものを用意してくれたわ!…でも、このドレスはママが送ってくれたもので…その、あたし――」
いつものハキハキとした妹は、何処へやら?今俺の目の前にいるジニーは、いつにも増してこれから告げることが、俺や特にジョージに言い辛そうに、歯切れ悪く言い淀んでいる。俺は焦らず、ジニーの言葉を待った。
「レイリ先輩が、ドレスを準備する余裕がなかったからって、パーティーへの参加を拒んでるっていうのをアリシアがケイティに話してるのを聞いちゃって…」
「おい、ちょっと待てよ? それなら、レイリはヤツの申し入れも断ったってことか?」
「やつって?」
「何をおっしゃいますか、妹君!ハッフルパフの王子こと、セドリック・ディゴリーの穴熊男に決まっているじゃないですか!」
そこで一つ、疑問が生じ妹に尋ねると「えぇ、まぁ…そういうことになるわね」と言う同意が帰ってきた。となれば、ヤツとレイリの噂に振り回されて、まるで燃えかすのようになっちまった俺の片割れにも、まだチャンスはあるってことだよな!
「それでね、あたしが先輩のことを手紙に書いて送ったら、これが届いたってわけなの」
「それじゃあ、このドレスをレイリが着るってわけか…」
「…どうしよう、ねぇ、フレッド。あたしって、お節介かなぁ」
不安そうに尋ねる妹の髪の毛をかき混ぜるように撫でてやると、非難する声が腕の中から聞こえてきたけど、今は無視だ。
「いいや!最高の妹だぜ!」
20130914
title by MH+
*フレッド視点
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