万物流転 | ナノ
50.ゆるすよ4
写輪眼の発動を止め仮面をつけたまま、まるでディメンターのようなローブを翻しながら校長室へと向かう。二対のガーゴイルの前に立った時「ようやく来たかの」と声がかかり私の帰りを待ちわびていたかのような校長先生と目が合った。

「後のことは、お任せします。校長先生」

ぽふんと言う軽い破裂音と白煙の中から再び現れた私に、ダンブルドアは驚きもせず「真実は、彼らに持たせました」と私が滑るように言えば「そうか」とただ一言だけ言った。「さて、お主はわしに何か言うことはないか?」ゆっくりと問う彼に、私は短く「ありません」と答える。

じっと全てを見透かしたような目に、私は居心地が悪くなって思い出したようにローブのポケットの中の丸底フラスコを取り上げた。「このフラスコの中は酸素濃度が一定に保たれています。そして、真犯人がこの中にいます」早口で言ってペッとそのフラスコを投げて渡すと、パシッと片手でキャッチした。

「私からの手紙を魔法大臣と一緒に読まれたら、ハリーの為にもすぐにシリウス・ブラックとピーター・ペティグリューの裁判を行ってください。そして、願わくは、シリウスの無実を立証してください」

哀願するような目をしていると自分でも思った。そうして、任務を完遂した私は、言葉通り、煙のように消えていなくなったのであった。後のことは、ダンブルドアとハリーとハーマイオニーに任せておけば、大丈夫だろう。

談話室に到着した私は、女子寮へと繋がる階段を登りながら、痺れた口の中に気休め程度の解毒薬を放り込み、ガリッと噛み潰した。苦くて冷たい液体が口の中いっぱいに広がって不快感が増したが、明日の朝になれば、きっと呂律も回るようになる。

だから、あの三人に怪しまれることはないだろう。そうして、仮面を脱ぎ捨てた私は、自分のベッドに倒れ込んで泥のように眠ったのであった。





それから一週間後の日刊予言者新聞の見出しに堂々とシリウス・ブラックの無罪放免の記事と、指を切り落とした裏切り者が実の親友をアズカバンに放り込み、自分は十二年もの間のうのうと無害な鼠になりすまして飼われていた!などとピーター・ペティグリューの記事が大きく報じられた。

ペティグリューはシリウスと同じように、アズカバンの監獄の最下層へと収容されたらしい。闇祓い局から、私の健闘を褒め讃える手紙と、ことの顛末を実は見守っていたアルバスが、私の保護者にそれをついぺろっと漏らしてしまったばっかりに、その人からの非難囂々の梟便が送られてきてしまった。

ロンからの手紙と新聞によりそのこと克明に知ったアーサー・ウィーズリー氏が、ホグワーツのアルバス・ダンブルドアの校長室へ乗り込んでくるのだが、それはまたのお話である。

20130819
title by MH+
*アズカバン編終わり!
炎のゴブレット(上)
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