万物流転 | ナノ
48.ゆるすよ2
私がチャクラを手のひらに集中させ、緑の光をまとった手で患部を撫でようとすると、ロンとハーマイオニーは同時に「アッ!」と言った。どうしたんだ?何かまずいことでもしてしまっただろうか。そう思いながらも手を動かすと、表面の傷はきれいさっぱりなくなった。

ロンが「あ、あなたは…もしかして!」と期待と不安でいっぱいの声で言ったちょうどその時。私の向かいに座り込んでいたハーマイオニーの顔が、雲からはみ出した月明かりに照らされてよく見えた。そして「ルーピン先生!」と彼女は悲鳴を上げた。あ!しまっ――

「リーマス、大丈夫か!今夜の分の薬は飲んだのか!」

「あ、あぁ、ァア、ア…!」

シリウスは、満月の光に照らされガタガタと身体を震わせて、がぱっと開いた口からは人と獣との間のような唸り声を響かせる旧友の元へ走った。正面から彼を押さえ付け「思い出せ!本当の自分はここにいるっ!」と目には手をやり満月を見させないようにもしていた。

私は舌打ちをして「シリウスさん、ルーピン教授から離れて!」と力の限り叫んだ。ハーマイオニーは、何を!?というような目をして、面をずらし顎と口を外気に晒す私に悲鳴を上げたが、私は彼女の声には答えず、脱狼薬の入ったゴブレットを引っ掴んで口の中へ流し込んだ。

ひりひりと口内が焼けただれる感覚に、眉をしかめるも私はルーピン教授に突進する勢いで飛び掛った。退いたシリウスの顔も、私が脱狼薬を呷ったことや人間離れした跳躍に驚愕の表情を浮かべていた。

私はそれを気にすることもなく、狙い通り教授の前に着地し彼の顎を掴んだ。膝裏を蹴って、彼に膝をつかせるとようやく私の方の背が高くなったので、そのまま躊躇なく彼に口付けた。

口の中の薬は、どろどろとしていて上手いように先生の口内へは運べなかった。緊急事態なのだから仕方ないと腹をくくり更に面をずらした私は、心の中でルーピン先生に謝りながらもっと深く口付けた。舌も頬の内側の肉も火傷のような痛みを訴えている。

私は口内の痛みにルーピン先生の肩をぎゅっと握り締めた。最後の力を振り絞って、口の中の薬の塊を舌で押し出す。意識が飛びそうになりながらも、やっと私は先生から顔を離すと、私と先生の間には薬と唾液の交じった糸が引いていた。

ペッと、口に残った薬を地面に吐き出す。後味の悪いこと悪いこと。私はこの魔法薬の改良を心に誓った。

「ディメンターのキスよりは、マシでしょう?」

突然の出来事に固まる三人組とシリウスさんに、私は苦笑いを零した。今の私の精一杯の冗談に誰も笑う人はおらず、ただただ重たい沈黙の後に、めりめりと音がしてルーピン先生がついに完全体になった。

20130819
title by MH+
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