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『私は、、、中学まで普通に過ごしていました。両親もまだ離婚してなくて、親友もいて、、、幸せ、、、だったんです』
「と、言うと、、?」
太宰の言葉に焔は瞳を伏せた。
『高校に入ってすぐ、愛奈ちゃ、、、親友が私に虐められたと噂が流れたんです、、、勿論そんなことしてないです。でも、、、、、誰も、、、、私の言葉を、話を聞いてくれない、、、』
話している内に今までの事が思い出されていく。毎日投げられる心を抉るような暴言。まるで自分が存在していないかのように無視される日々。慣れる事なんてない。
『もう、私の言葉はみんなに届かない、話しかけても嫌な顔をされて、、、なら私は、一人でいようと、、、』
次第に麻痺していく自分に恐怖すら感じた。
『謝ろうと思ったんです。私は、知らない内に親友を傷付けていたんだと思って』
謝ればまた親友に戻れるかもしれない。そんなささやかな期待は打ち砕かれた。
『親友に、、、「本当は大嫌いだった」って、ハッキリ言われました、、、』
もう戻れない。そう思い知らされた。
『今でも、、、分からないんです。何が悪かったのか。どうするべきだったのか、、、』
せめて、理由くらい教えてほしい、、、。それすらも叶わないのか。
『それで、、、放課後、親友の取り巻きの子達に捕まって。【joker】をされたんです』
「Joker?」
敦の言葉に一つ頷く。
『【Joker】は私達の町では有名な都市伝説で。メールで殺人を代行してくれる怪人です』
「!!?」
「え、、、それをされたって事は、、、焔ちゃん、、君は、」
『いえ、私は殺されてはいません。理由は分かりません。でも、、、』
「、、、でも?」
気を失う直前に見た光景を思い起こしながら、焔は言葉を紡いだ。
『、、、Jokerの姿を見ました。顔の半分が仮面に覆われた、、、男の人が愛奈ちゃんの背後にいて、、、それから先は分かりません。そこて気を失って、、、目が覚めたらあそこに居ました』
「「「、、、、」」」
『Jokerに依頼されたらその日の内に処刑されます。でも、私は依頼されたにも関わらず、処刑はおろか私の元に現れなかったんです、、、でもその翌日、、私にJokerをやった取り巻きの人たちが死んだんです、、、』
今考えても不思議だった。あの冷酷無比な怪人が自分を見逃すなんて。それに何故、御波達が犠牲になったのか、、、分からない事ばかりで不安ばかりが募る。
『、、、私は、、殺す価値も無い、と判断されたのでしょうね、きっと』
自分で言った台詞に胸を締められる感じがして、焔は胸元のリボンをきゅっと握った。
ぽん、、、、
暖かい何かが頭に乗った。驚いて顔を上げると真剣な、、、でも優しい目をした太宰がいた。
「辛かったね。話してくれてありがとう」
『信じて、、くれるんですか?』
「ああ。私の見解だけど、君は嘘が付けるような子じゃない、、、、」
『っ、、、』
太宰の言葉にじわりと視界が歪む。こぼれ落ちそうになる物を必死で抑えようとしていると、隣にいた敦に背中を擦られた。
「僕も信じるよ、、焔ちゃんの話、、、」
『中島、、、さん、、、』
「俺も信じよう、、」
『国木田さん、、、』
「お?珍しいね。てっきり有り得んって切り捨てると思ったのに」
国木田の意外な反応に太宰が驚く。すると国木田は手帳を開きペンを走らせながら呟いた。
「世の中は目に見えるものだけが真実ではない。隠れている物こそが重要な場合もあるんだ、、、相手の姿を見たとあっては安心は出来ん。Joker、、、か、、、一応記憶しておこう」
言い方は固いが焔の身を案じている国木田の言葉が嬉しかった。
ニヤニヤと国木田を眺めていた太宰は、にこりと焔に微笑みかけた。
「今まで堪えてよく頑張ったね。もう一人で頑張らなくて良い。これからは私達がいるからね」
『ありがとうございます、、、っ』
太宰の言葉で、胸につかえていたものがストンと落ちた途端、今まで我慢していたものが一気に溢れた。
焔が落ち着くまで肩を震わせ涙を流す背中を敦はずっと擦り続けた。
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