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「げほげほっ」
『大丈夫ですか?』
「あ、う、うん、、、」
『?』

何とか男性を救い出し、咳き込む敦の背中を焔が擦りなが気遣う。赤面した彼に疑問を抱いていると、男性がむくりと起き上がった。

「助かったか、、、、、ちぇ」
「『、、、え?舌打ちした、、、?』」

ボソリとぼやくと、側にいた二人に目を向けた。

「君達かい、私の入水を邪魔したのは、、」
「邪魔だなんて、、、僕はただ助けようと、、、」
『じゅ、、、入水、、、?』
「知らんかね、入水。つまり自殺だよ」
「『は?(はい?)』」

二人があんぐりしていると、ヤレヤレ頭を掻きながらふと、焔に目をやった。

「、、、、、」
『、、、?』

その時、焔は初めて顔をまともに見た。
綺麗な顔立ちのまさに美青年だ。背も高くスラッとしており、先程の入水発言さえなければ世の女性が放っておかないだろう。それに何故か服から覗く部分に包帯が巻かれており、怪我をしているのかファッションなのか、、、ますます困惑する。
焔がそんな事を考えていると、ふいに手をやんわりと掴まれた。

『あ、、、の、、、』
「ああ、桜の花の如く儚く美しいお嬢さん。どうか私と心中していただけないだろうか、、、」
「なっ、、、!!」
『え?、、、心中、、、!?』

突然の申し入れに驚きを隠せず、目を真ん丸にして目の前の男性を見る。
キラキラと効果音がしそうな笑みを浮かべながら自分を見つめている男性。その眩しさにクラクラし始めたが、とんでもない事に誘われている事に気づき、オロオロしていると、後ろにいた敦にぐいっと腕を引かれポスンと倒れ込んだ。

『あ、、、、』
「な、、何て事に誘ってるんですか、、、」

少しムッとした顔をした敦が、焔を守るように抱きすくめる。ふわりと漂う香りと柔らかな感触に、すぐにハッとし真っ赤になりながらパッと離した。

「ごごごめんね」
『え、、い、いえ、、、』
「ふーん、、、そう言うことかぁ」

その二人のやり取りを見ながら、男性はニヤニヤしながら呟く。その台詞にキョトンとする焔とアワアワしながらさらに真っ赤になる敦。
男性は焔の頭を軽く撫でてから、外套の汚れを叩く。

「まあ、人に迷惑をかけない清くクリーンな自殺が私の信条だ。だのに君達に迷惑をかけた。これは此方の落ち度。何かお詫びをー」

ーぐぅうぅぅ、、、ー

男性がそう言いかけたとき、焔の隣で盛大にお腹の虫が鳴った。敦だった。それを見た男性はクスリと笑う。

「、、、空腹かい少年?」
「じ、じつは、、、ここ数日何も食べてなくて、、、」

ーぐぅうぅぅ、、、ー

敦が言い終わらない内に今度は男性のお腹の虫が鳴った。

「私もだ。ちなみに財布も流された」
「ええ?助けたお礼にご馳走っていう流れだと思ったのに、、、」
「?」
「?じゃねぇ!!」
『、、、?』
「おぉい、、、」

二人のやり取りを焔が苦笑いしながら眺めていると、向こう岸から声が聞こえ、三人がそちらに視線を移した。

そこには後ろ髪の長い背の高い、キリッとした顔立ちの男性が仁王立ちしていた。


「こんな処に居ったか!!唐変木!!」
「おぉ!!国木田くん!ご苦労様」

呑気に返されイラついたのか、国木田と呼ばれた男性はさらに顔を険しくした。

「苦労は凡てお前のせいだ、この自殺マニア!!お前はどれだけ俺の計画を乱せば、、、」

喚いている国木田を他所に、男性は敦と焔に向き直る。

「そうだ君達。良い事を思い付いた。彼は私の同僚なのだ。彼に奢って貰おう」
「へ?」
『あの、、、でも、、、』
「聞けよ!!」
「君達、名前は?」

国木田の叫びをさらにスルーする男性。まず敦が恐る恐る答える。

「中島、、、敦ですけど、、、」
『纒焔、、、です』
「よし、敦君に焔ちゃん、付いて来たまえ。何が食べたい?」
「はあ、、、、あの、、、茶漬けが食べたいです」

敦が少し恥ずかしそうに答える。すると、男性はぷっと吹き出し笑いだした。

「はっはっはっ!!餓死寸前の少年が茶漬けを所望か!!いいよ、国木田君に三十杯くらい奢らせよう。焔ちゃんは?」
『私は、、、大丈夫です。ありがとうございます』
「俺の金で勝手に太っ腹になるな、太宰!!」

向こう岸にいる国木田の怒鳴り声を聞きながら、敦が反応した。

「太宰?」
「ああ、私の名だよ、、、」


ー太宰、太宰治だー


男性、太宰はそう言うとニコリと笑った。






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