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「要くんも、ですか?」

「ま、まぁな……その……そうだ、美味いラーメン屋があるって聞いたんだ!」

「そうだったんですか。要くん、ラーメンが好きですもんね」



 疑うばかりかすっかり納得し、朗らかに笑う琥珀。対照的に、口元を引き攣らせて笑う要。



 そんな彼の頭の中では、物凄い勢いで記憶の引き出しが開け閉めされていた。咄嗟に吐いた嘘を真実にするために。











 琥珀、そして要の休日。その日は偶然にも平日で、人出も比較的に少ない。出掛けるにはうってつけだ。加えて、澄んだ青空が広がっている。



 彼女は玄関の前で気持ち良さそうに、優しく撫でる風に身を任せていたかと思えば、くるりと振り返った。そして、バイクのエンジンをかけている要を見つめる。



「要くん、今日はよろしくお願いします」

「あぁ」



 要は琥珀にヘルメットを手渡す代わりに荷物を受け取ると、自分のそれと共にリアボックスに仕舞った。これで準備万端。そして、楽しそうに笑みを溢す琥珀へと視線を移す。



 今日の彼女は、デニムのパンツにショートブーツという出で立ち。スカートでバイクに乗るのは、安全面からも要の精神的にも都合が悪い。万が一の時のために肌の露出は避けるべきということ、そして、風に煽られてヒラヒラと舞ってしまわないかと焦ってしまうからだ。もっとも、後者は口が裂けても言えないのだが。



「さて、そろそろ行くか」

「はい! それで、あの……ここに乗ればいいですか?」

「あぁ」



 要の後ろに琥珀が跨がり、彼の腰に腕を回してしがみ付く。その瞬間、彼の心臓は跳ね上がった。



 高鳴る鼓動が伝わってしまうのではないか、と思う程に体が密着する。布越しに感じる体温に、否が応にも熱が上昇していく。



 デートに誘うことで頭がいっぱいになり、失念していた。彼女をバイクに乗せるとは、こういうことなのだ。



 だが、今さら後には引けない。雑念を捨てて集中しなければ。この気の緩みが原因で事故を起こし、琥珀に怪我を負わせたとなれば、どうなるか。



(耐えらんねぇし、命も無ぇよな……)



 鬼の形相をしたよろず屋メンバーが頭を過る。要はそっと目を閉じ、深く息を吐く。そうして前を見据え、バイクを走らせた。











 無事に目的地に到着し、ラーメンとスイーツを堪能した二人。だが、このまま帰るには日が高過ぎる。そこで、バイクを駅前の駐輪場に停め、商店街を散策していた。



 平日の昼下がりということで、夕飯の買い物に来た主婦たちで賑わうアーケード街。至るところから客引きの声が聞こえ、活気に満ちていた。ここに学校帰りの学生が加われば、さらに賑やかになることは想像に難しくない。



「……ん?」



 後ろから何かがぶつかった感触を覚え、要が振り返る。そして、急に立ち止まった彼を不思議に思い、琥珀も後ろを向いた。



 そこにいたのは、幼稚園児くらいの男の子。その顔は、今にも泣きそうに歪んでいる。母親らしき姿も見当たらない。



「僕、お名前は?」



 子供と視線を合わせた琥珀は、にっこりと笑みを浮かべ、優しく声を掛ける。不安な心を解すように。だが男の子は、怯えるように体を竦ませた。



「怖がらなくて大丈夫ですよ」

「ったく、親なら自分の子供ぐらい見とけっての」

「仕方ないですよ。こんなに人が多いんですから。でも、このままじゃ可哀相ですよね」



 琥珀は周囲に視線を巡らせ、もう一度、子供へと戻す。そして頭を撫でながらふわりと目を細め、立ち上がった。