穏やかな彼女

 彼女はよろず屋達の
 心を和やかにする存在である


穏やかな彼女



「こんにちは」
 穏やかな声が聞こえて、仕事を終えたばかりの琥珀が顔を出した。玄関には、小柄で和服を着た女性――雫が立っていた。雫は昔から身体が弱いこともあり、普段は道場の管理をしている。
 忙しいのにも関わらず、雫はある事件をきっかけに琥珀達に助けてもらっていた。そのこともあり、以来ずっとこうして交流をしてきている。メンバーの姉であるというのは、琥珀たちも知っている。
 そんな彼女の手には、中くらいほどの紙袋が二つ提げられていた。片方は妹のもの、そしてもう片方は手作りの和菓子である。
「こんにちは、雫さん。今日は道場の管理をしているはずじゃあ……」
「今日はわけあって、道場をお休みしました。それに、妹が持ってきてほしいものがあると頼まれましたから」
 水樹は仕事に出かけていて不在である。帰って来るまでには時間がかかるし、雫もきっと妹に会いたがるだろう。そう考えた琥珀は、水樹が来るまでの間にお茶でもどうかと声をかけた。
 お邪魔します、と雫は一礼して下駄を脱ぐ。琥珀の後についていき、客間である和室の中へと入って行った。
「久し振りに抹茶を購入しましたが、いかがです?」
「抹茶ですか? そういえば、雫さんにお茶を立ててもらったのがおいしくって」
 そうですか、と雫は軽やかな笑みを浮かべる。右手に提げていた紙袋を机の上に置き、手作りのおはぎを取り出した。
「また、よろしかったら淹れて差し上げます」
「お言葉に甘えて、頂こうかな」
 あまりにも久し振りだったのか、二人で顔を合わせては微笑む。すると、玄関からただいまとの声がかかった。雫が玄関の方へ向かうと、水樹が立っている。
「おかえりなさい」
「し、雫姉さん。今日は道場……」
 いきなり姉が来るとは思っていなかったのか、水樹は少し唖然としている。そんな妹を見ては、雫はにこりとしながら答えた。
「今日はわけあって、お休みをしました。それに、昨日電話で持ってきてほしい物があると言って持ってきましたよ」
「ああ、ありがとう」
 水樹が口をパクパクしている横で、仕事を共にしていた湊は普通に挨拶をしている。雫は湊に頭を下げ、妹がいつもと律義に返していた。
「それに、皆さんに会うのが久し振りでお菓子と抹茶を持ってきました」
「ありがとうございます。雫さんのお菓子、とても心待ちにしていました」