救いの五感
記憶も曖昧な頃に母親との貧相な生活。少し成長してから母親とは病気で他界し、新しく父親が出来た。だが更にその後、父親も変死で他界。両親に愛されて生きてきた。ぼくも精一杯両親を愛しました。
もしかしたら、もしかしたら、自分は疫病神かも知れない。そう思いました。
ぼくの所為で、ママとパパは死んじゃった。
ぼくが悪い子だから、神様が罰を下したんだって。ぼくが言ってた。
だからきっとママとパパはね、ぼくを憎んでると思うんだ。地上に出て来て、生きてしまって、あなた達を殺してしまって、ごめんなさい。って・・・・でも自ら死ぬ事はね、みっともない事だっておじさんが言ってたから、ママとパパに恥をかかせないように生きていくね。
「あまり自分を攻めないで」
わたしはその少年の言葉を聞いて、胸が痛んだ。美しい夜空より深い色をした黒髪がサラリと微風に揺れる。此処は賽の河原、親不孝で悩み苦しむ子供達の魂を救い出す菩薩の化身が現れると噂があって、それは私で。今までに何人もの親不孝で苦しむ子供達を見た事か。
しかし、こんな形で話を聞く事は初めて。この子は生きている、生きているからまだ親孝行が出来るのではないだろうか。否、違った。親孝行の対象がもう傍にいない。
「あなたの所為じゃないよ、絶対」
血を滲ませた真紅の瞳を持った少年の、震える体を前から包むようにして抱き締めた。大人びた思考とは反対の、身体の小ささがよく分かる。外見から見て小学生低学年・・・辺りだろう。
10にも満たないその年で、"死"というものの重みがずっしりとのし掛かった体。癒やしてあげたい。わたしは、菩薩の化身。あなたを救う為に、今日は此処に来たんだよきっと。
「ご両親も、あなたの事は絶対責めてないって思う。憎んでいるならば、愛されて育たないもの」
中身の詰まっていないわたしの手だけれど、今は愛と情が沢山詰まっている。その手であなたの頭を撫で、あやした。わたし自身が出来る事は、ただ優しい言葉をかけてあげるだけ。そう、それだけしか出来ない。悔しさが腫れ上がって破裂しそうだ。
奥歯を噛み締めた辺りで、されるがままだった少年がわたしを初めて見た気がする。わたしが撮影されている瞳には、不思議な力を感じた。