虹色の幸福
終業を告げる鐘の音が鳴り響く。その音を聞いた雪菜は、シャープペンシルを置いて、ルーズリーフをバインダーに閉じた。後はHRが終われば帰れる。ふう、と息をついて机の上を片付けていると、ポケットに入れている携帯が振動した。
まだ担任は来ていなかったため、ポケットから出して携帯を開くと、どうやらメールが来たらしい。携帯に表示された名を見て胸が高鳴る。
From 蓮ちゃん
To ×××
Sub おつかれ、雪菜。
部活、急に休みになったから、今日はオレが迎えに行くな!
「蓮ちゃん……」
決して長いメールではない。それでも嬉しかった。携帯を握りしめ、彼の名を呼ぶ。
今でこそ普通の学園生活を送っている雪菜だが、以前はここ――桜花台学園ではなく、楓華学園に通っていた。
何故、彼女が桜花台学園に転校してきたかというと、そこでいじめを受けていたからである。執拗ないじめを受け、人間不信に陥っていたほどだ。
恋人である蓮汰や友人たちに支えられ、何とか通っていたのだが、耐え切れなくなってこの学園に転校したのだった。
しかし、雪菜をいじめていた生徒が、この桜花台学園まで追ってきたため、雪菜はよろず屋に依頼した。
彼女たちは見事に生徒を学園から追い出してくれ、お陰で今は穏やかな日々を送っている。
自分でも気付かない内に顔が緩んでいたのだろう。 仲の良い女性徒が含みのある笑みを浮かべて雪菜を見つめているではないか。
「なになに、雪ちゃん? あー、分かった。彼からメールでしょ?」
「ええっと、その……はい」
はにかむように笑えば、女性徒も自分のことのように喜んでくれる。いじめにあっていた時は、こんな穏やかな日々がくるとはとても思えなかった。
もし蓮汰たちがいなければ、本当に耐えられなかっただろう。