3

「そ……そんな理由で、あんた……」
 ようやく、掠れた声で要が、停止しかけた心のエンジンを温め始める。ゆらりと一歩踏み出す、少年の怒りが限界に近づいているのは明らかだった。はらはらと見守る琥珀の頭は、この場の不穏な空気を払拭する術を絶え間なく考えるも、思いついた端から泡沫の如く弾けて消えてしまう。そんな彼女の様子を、しんみりと眺めたレゾンは、よせば良いのに最後の決定的な地雷を踏んでしまった。

「だって可愛いじゃないか。琥珀ちゃん」

 誰に同意を求めての、それなのか。朗らかな笑顔と共に、紡がれた無遠慮な口説き文句。まったく予期していなかった賛美に、琥珀は見る間に頬を赤らめる。そしてその一言は、要の心に土足で立ち入るものであるのは、最早覆しようもなかった。わなわなと肩を震わせながら、ことの元凶たる漆黒の英雄を睨みつける。
「ふっざけんなよ……てめえ。琥珀は、琥珀はオレの……――!」
「ほほう。なんだ、坊主。琥珀は、オレの?」
「うるせえっ! 琥珀は……!」
「は、え……? 要くん。私が……どうしたんです、か?」
「――ッ!? ……いや、その……」
 勢いのままに言いかけた告白は、あまりに真っ直ぐな琥珀自身の言葉によって封じられてしまった。喉奥で潰れた想いが、胸の辺りまで下がり、熱を孕んでわだかまる。二の句が継げず、要が視線を中に彷徨わせていると、忍び笑いを片手で隠しているレゾンの姿が、偶さか目に入った。――直後、憎き黒幕に向かい、少年が集中砲火を始めたのは言うまでもない。



『 雪合戦という名の浪漫 』
(ど、どうしよう……! 早く止めないと、レゾンさんが雪で見えなく……)
(ああ、いや……あれは放っといても良い、んじゃないかな。完全にレゾンの自業自得だし)
(でも、要くん……私に何て言おうとしていたんでしょう?)
(それは……うん、済まない。直接本人から聞くのが良いと思う。それより、雪の上に座り込んでいたら風邪を引くだろうから、そろそろ立とうか。ほら)
(あ、はいっ。有難う御座います!)

--------------------------------------------------------------------------------
END