Rescue mission
「お願いします。どうかユリアお姉様を助けてください」
琥珀が営む何でも屋に『彼女』が現れたのは一ヶ月ほど前のことだった。腰に届くほどのブロンドに長い睫毛の下から覗くアーモンド型の瞳は澄み渡るスカイブルー。歳はまだ十歳にも届かないだろう。首元に大きなリボンがついた白いシャツに赤いワンピースを纏った彼女はどこからどう見ても良家のお嬢様、と言った佇まいだ。
しかしまだ幼子と言える彼女が何故、こんな何でも屋に依頼を持ち込んだのか。
彼女の名はソフィア。彼女の、正しくは彼女たちの家は世界でも有数な資産家であるらしい。しかしソフィアの父は足を洗ったとは言え元マフィアであったらしく、かつての仲間が訪ねてくることもあるとか。
にわかには信じがたいがソフィアには未来を予知する力があり、一ヶ月後に父に取引を断られたマフィアが彼女らの家を襲撃するという。
ソフィアの依頼はマフィアの撃退と姉ユリアの救出。条件はマフィアは必ず生きて返すこと。二度と自分たちに手を出さないよう、散々傷めつけた上で逃がして欲しいらしい。
勿論、琥珀が断る理由はどこにもない。そんな琥珀に協力を申し出たのはレスカだった。表向きは学生ということになっているが、彼女は実は、彼女らを狙う者たちとは違う組織に属する始末屋でよろず屋の一員なのである。そして、
「準備はいいか?」
「……いつでも大丈夫です」
琥珀とレスカはソフィア達の屋敷の前にいた。既に日は落ち、夜の帳が降りている。空には銀の星々と黄金の月。辺りは静寂に包まれており、虫や動物の声も聞こえない。
しかし琥珀とレスカには分かる。多くのマフィアたちが息を殺して屋敷を囲んでいるのを。
トンファーを携えた琥珀はボディスーツのように体にぴったりとフィットする大きく前が開いた黒のジャケットにミニスカートと言う出で立ちである。
レスカは黒のスーツにスラックス、ネクタイもきっちりしめていた。武器である伸縮性のある紐――ドルチェビータを手にした彼女の青い瞳はただ一点、屋敷に向けられている。
依頼人であるソフィアは姉を守るべく、屋敷にいた。琥珀やレスカが危険だと言っても聞かなかったのだ。どうかお願いします、ユリア姉様を一人には出来ません。それに、私が屋敷を出たと知れると姉に振りかかる危険が増すかもしれないんです、と。