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「おい、どうした!?」

 異変に気づいたのだろう。もう一台の車からも男たちが姿を現した。皆、銃や刃物を手にしている。
 既に美夕たちの目的に気づいたのだろう。女三人と侮っているようだが、美夕は警戒したまま、男たちを見つめた。

「さらった人を返して下さい。今すぐに!」

「なら、こいつがどうなってもいいのか!?」

 ドアが開く音がしたかと思うと、二人の男に連れられ、青み掛かった黒髪の女性が姿を現した。二人に挟まれているため、身動きができないのだろう。
 依頼人の蕾であり、彼らは彼女を叔父の元に連れてくるよう、命令されているのだろう。

「その人を連れて来い、そう命令されてるなら、お前たちは彼女を傷つけられない」

「ふん、話さえ出来ればいいと命令を受けている。腕や足の一本、折れても問題はない」

 夕梨が静かな声で言うと、男は蕾の腕をねじり上げた。声さえ出さないものの、蕾の表情が苦悶に変わる。脅しではない。本気だ。
 実力的には大したことのない連中でも、人質を取られれば別だ。美夕はおろおろと姉を見つめ、夕梨は舌打ちをして鞭を握り締めている。

「じゃあ、私も遠慮はしないわよ」

 くすり、とそれまで微動だにしなかった人形が笑った。指揮でもするように虚空に指を這わせる。
 瞬間、男たちが短い悲鳴を上げてその場に蹲った。光を浴びてうっすらと輝くのは細い糸。ナタリアの武器である鋼の糸だ。
 美夕と夕梨はその隙に男たちを気絶させ、蕾の元へ駆け寄った。

「お怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です。助けて頂いて本当にありがとうございました」

「話は後。今は琥珀達に合流するわよ。遂に相手方が墓穴を掘ったんだから」

 心配そうに蕾を気遣う美夕に、安心したように微笑む蕾。夕梨も言葉には出さないが、安堵していることだろう。
 妖しく笑うナタリアは言った。話は後だと。
 ナタリアの言葉に二人は緊張感を取り戻す。まだ終わった訳ではない。美夕と夕梨は顔を見合わせると蕾を連れ、琥珀達の元へ向かった。





End