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エレナ、レジーナとは場所を別にして。
此処は聖域の一角にある深い深い森。
辺り一面鬱蒼とした木々が生い茂り、空を覆い尽くした木の枝や葉が日差しを完全に遮ってしまっている為、どことなく薄暗い。
さわさわと木の葉が風に揺れる音だけが辺りに響き渡り、吹き抜ける風は少々冷たささえ感じる程。
そんな静まり返った森の奥底で、蠢く二つの人影。
こんな鬱蒼とした森に人が居るのは珍しく、しかも2人共まだ若い少女のようであった。
「…ってか何、ココ? 何か超田舎の森って感じだし、全然訳分かんないし…もうホント有り得ないんだけどー」
人影のうち1人、人工的に茶色く染めたような髪を肩位の長さに伸ばし、何処と無くやる気の無さを感じる少女は些か混乱と辟易を綯い交ぜにしたような顔つきで辺りを見渡す。
その一方で、彼女の傍らに居るもう1人の少女は何故か瞳をキラキラ輝かせて興奮している模様。
「まぁ…っ! 素敵っ、素敵ですわ〜! こんな摩訶不思議な体験、本当にあるんですのね〜!」
金色の長い髪を腰辺りまで伸ばし、髪と同じ色の獣耳を生やしたかなりの美少女。
そんな彼女をジト目で見やりつつ、茶髪の少女は心底やる気の無さそうな、覇気の無い溜め息を零した。
「はぁ…ったく、こんな状況で何でそんなテンション上げられんのか訳分かんないっつーの。あ〜もう、虫に刺されたら超ヤなんだけど」
「あら、マナったらご機嫌斜めなのですね。本当にこんな不思議な世界に迷い込む事があるだなんて…貴重な経験だとは思いませんこと?」
「別に〜? つーか、あたしそれ以前にも似たような経験してるしー」
「……あ、そういえばそうでしたわね。さぁさぁ、折角の機会ですもの、この辺り歩いてみませんこと? きっと何かあるかもしれませんわっ!」
「え〜? 超めんどい…でもまぁ、此処で突っ立っててもしょうがないしね。誰かいればいいんだけ……ん?」
2人の少女の間に大分温度差があるような気もしなくもないが、早速歩き出そうとした少女達は不意に耳に飛来する一つの唸り声のようなものに思わず顔を強張らせる。
第六感にも似た感覚が背中を撫でつけ、冷や汗が背中を伝った。
──刹那。2人の前に姿を現したのは、狼型の魔物が数匹。
向こうは彼女らを敵と見なしているのか、狂気に支配された双眸をぎらつかせていた。