無題
此処は、人間が住まう下界とはまた異なる世界。
魔力を持つ者、そして魔獣等普通の動物とは異なる生物達が共存し、穏やかな時を刻み続ける世界。
人はこの世界を、聖域と呼ぶ。
そして、聖域で最も特徴的なものといえば、聖域の中央に聳え立つ《時の塔》と呼ばれる建物である。
一体誰が、何の為に創られたのかは未だに謎に包まれているが、分かっている事と言えばもし時の塔に何らかの異変が起これば、世界中に災厄が訪れる…という事。
塔の均衡を保つ為、厳しい修行を積んで大賢者の称号を手に入れた者を塔の管理者に据える事となった。
現在、塔の管理を担っているのはレジーナと呼ばれる女性の賢者。
聡明で尚且つ母性的な穏やかさを持ち合わせた女性だ。
彼女にとって塔の管理が最優先される為、毎日のほとんどを此処時の塔で過ごしている。
レジーナ以外に塔で暮らす者は当然おらず、そのせいかひっそりとした空間で1人でゆったりと暮らす事が多い。
だが、そんな中、足繁く塔に通う人物がたった1人だけ存在した。
──そう、その人物こそレジーナの大切な親友…その人である。
「御免下さい…レジーナ、居ますか?」
「あら…エレナ、いらっしゃい。お待ちしていましたよ。さぁ、お入りなさい」
「ありがとう、じゃあ早速お邪魔します」
時の塔にやってきたのは、修道服に身を包んだ1人の女性。
彼女は《白魔女》とも呼ばれている人物で、聖域の北部を守護する任務を担っている。
だが、それだけでなくレジーナとは親友同士でもあるのだ。
こうして頻繁にレジーナがいる時の塔を訪れては、お茶を飲みながらまったりお喋りをしているようだ。