心配

リ「え?ジューンの様子が変?」

ある夕食の席で、リープは紅茶をすすりながら聞き返した。

エ「そうなの。なんか様子がおかしくて」

オレンジ色の髪の毛をした少女、エイプリルは頬杖をつきながらうなずいた。

その横で、鮮やかな赤い髪の毛をしたメイが座っていた。

メ「どう変なの?」

メイの問いに、エイプリルは人差し指を頬に当てて考えるしぐさをする。

エ「えーと、うまく言えないんだけど…なんか変なの!」

メ「なによそれ…」

呆れながらメイとリープはジューンの様子を思い浮かべた。

エイプリルとジューンは恋仲で、夢魔の中でも有名なラブラブカップルだ。

普段は寡黙なジューンも、エイプリルといると隙あらば愛を囁いている。

でも最近は…。

時折ふらりといなくなったり、帰ってきても物思いに耽ったり。

エイプリルと一緒の時はいたって普通なのだが…。

リ「確かにおかしいわね」

メ「言われてみれば…気が付かなかったわ」

エ「でしょ!どうしちゃったのかな、ジューン…」

心配そうなエイプリルに、リープとメイはアイコンタクトをとった。

メ「心配なのはわかるけど、今日はもう休みなさい。いつ任務が来るかわからないでしょ」

リ「それがいいわ。ね、エイプリル」

メイとリープに言われ、エイプリルもうなずいた。

エ「…そうだね、ジューンなら大丈夫だよね!お休み、メイ、リープ!」

リ「ええ、お休み」

パタパタとかけていくエイプリルの後ろを見送る。

メ「大丈夫かしら、あの子」

メイもリープもわかっている。

大丈夫なわけがない、空元気だと。

本当は心配で、不安でたまらないだろう。

彼女がなにより恐れていること。

―浮気…―

ジューンに限ってそんなことはないとは思うが、それでも不安というのは払拭しきれないものだ。

リ「まさか、とは思うけれどね」

メ「人間の男じゃあるまいし」

メイが吐き捨てるように言う。

リ「でも、私たちにできることなんてあるかしら?これはあの子たち二人の問題と言ってしまえばそれまでだけれど」

メ「わざわざ介入してさらに問題を拗らせたくはないわね」

他人に無関心のメイ。

そのとき、リープはとある話を思い出した。

リ「ねえ、メイ」

メ「なに?」

リ「ちょっと話を聞いたんだけど…」

リープの話を聞いたメイは片眉をつり上げた。

メ「…信用できるの?」

リ「わからないわ。だから、もしやるなら霜月様のご許可を頂いてからね」

メ「ふーん…まあ、それは霜月様次第ね」

そう言うと、メイは食後の紅茶を一口飲んだ。


――――――――――

エ「ジューン!いってらっしゃい!」

ジ「ああ、エイプリル。行ってくる」

軽くキスをして出掛けていく最愛の相手を見送りながら、エイプリルはまた不安に飲み込まれそうだった。

ジューンは好きだと言ってくれる、愛していると言ってくれる。

浮気なんて、あり得ない。

…でも…。

本当は違ったら?

ジューンが目移りしてしまっていたら…?

もう自分を見てくれていないとしたら…?

あり得ないと思えば思うほど、悪い方へと思考が向いていく。

ぼんやりと視界が揺らぐ。

目をこすって無理やり鎮め、エイプリルは自室へかけ戻った。






メ「結局許可もらえたの?」

リ「ええ、驚くほどあっさり」

今朝リープは、師走と霜月に手製の和菓子を届けに霜月邸に行った際に、それとなく話を持ちかけたのだ。

すると、

霜「もちろん、あの二人のために是非」

と二つ返事で承諾されたのだ。

メ「それで、今日なの?」

リ「ええ、もうすぐのはずよ」

そのとき。

?「メイー!リープー!」

てててっとかけてきたのは緑の髪の女の子マーチと赤い髪の男の子、オクト。

子供の姿だか、れっきとした夢魔だ。

メ「どうしたの?」

マ「お客様が来たの!」

オ「見たことないお姉さん二人だよ」

リ「来たわね。ありがと、二人とも」