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 その感覚を紛らわせるように鼻にかかった吐息を漏らすと、自分の物とは思えないほど甘ったるい声になった。聞いている自分まで恥ずかしくなるような声に、蓮汰は慌てて目を丸め驚いた。
「わ、悪い! 痛かったか?」
「ちが……!」
 真剣に謝られて、なにを言っていいか分からなくなってしまった。今自分が感じた気持ちを口にするのも躊躇われる。
「な、なんでもないから……ごめんね」
 なるべく目を合わせないように答えると、蓮汰も察するものがあったらしく、どこか困ったように俯きながら「あ、ああ」と頷いていた。
 言葉で言い表せないこの気恥ずかしさはなんだろう。蓮汰との間にある空気が擽ったい。
 そして再び蓮汰の手が、雪菜の柔らかな膨らみを包むように宛がわられる。さきほどよりも少し、大胆な手つきだ。
「ん……っ」
 蓮汰の手に力が入る度、そこから電気が走るような甘い感覚が伝わってくる。気付けば雪菜は蓮汰の手が動くたび、鼻にかかった声を漏らしていた。
 今度は蓮汰の手は止まらなかった。そして蓮汰の手が胸の突起を掠めたとき、脇腹の下が無性に切なくなるのが感じられた。同時に、今までで一番大きな声を漏らしていた。
「ああっ!」
 眉根を寄せ表情を歪めると蓮汰は宝物にでも触れるかのように慎重に、もう一度雪菜の突起を触ってくる。
「ふ」
 蓮汰の指が触れているところから甘ったるい電流が走っている気がした。強張っていた体が、心地好いその刺激によって弛緩していくのが分かる。
 ちらりと視線を持ち上げると、いつもよりも余裕のない蓮汰の顔が視界に映る。その顔は今まで生きてきた中で初めて見る蓮汰の顔だった。
(あ……)
 その顔を見たとき、「良かった」と思った。蓮汰の知らない一面を確かに見れたのだ。
 体を重ねるとその人のことがよく分かる。
 映画の中で聞いたあの言葉は本当だったのだ。
「ふ……っ」
 雪菜の胸の飾りを弄る手つきは次第に大胆になっていく。雪菜は更なる刺激が欲しくなり、太ももを無意識の内にすり合わせていた。
 その動きを合図にしたように、蓮汰の手が雪菜の下腹部に下げられるのが分かった。それだけで肌に心地好い違和感が走って仕方ない。
「……っ」
 その動きに次に起こることが簡単に予想できた。初めてとは言え、ある程度のことは知っているつもりだ。
 そして、その予想は当たった。
 一番敏感な場所に、蓮汰の手が触れたのだ。確かめるように慎重に動いていた。
「んぁ……」
 唇から、自分の物とは思えないような甘い声が零れる。手の動きに合わせて、声は大きくなったり弱くなっていく。段々と、蓮汰の顔を見ているのも辛くなっていく。
「んんっ……蓮ちゃん……」
 熱に浮かされたように最愛の人の名前を呼ぶ。
「雪菜……」
 蓮汰もすぐに言葉を返してくれた。そして数秒後には、雪菜の首筋に柔らかな感触が触れた。それが蓮汰の唇であると分かったのはすぐのことで、雪菜は唇の感触に全てを委ねるように目を閉じていた。
 今まで以上に強い快感が雪菜の体を襲ったのはそのときだった。普段は下着に覆われている場所に手を伸ばされたのだ。
「んっ……ぁ、汚いよ……」
 体を再び緊張に強張らせながらも、雪菜は小さな声で制止しようとする。しかし蓮汰は止めようとはしなかった。それどころか、秘部を確かめるようにそこをなぞりあげていく。
「雪菜の一部なんだ、汚くなんかない。だけど、痛くないか?」
 その言葉に即座に否定をしてみせた蓮汰は、次に自分の体を心配してきてくれた。どこまでも優しい蓮汰に胸が締めつけられたが、言葉は返さなかった。下手に口を開くと、喘ぎ声に変わってしまいそうだったからだ。声を出さない代わりにこくこくと何度か小さく頷いて答える。
「……よかった」
 そう言った蓮汰は明らかに胸を撫で下ろしているようだった。そして指を上下に動かしてくる。
「んぁ」
 指の動きが再開されたことにより、雪菜の意識は強制的に下腹部に移った。入口をなぞられる度に頭が甘く痺れ、体の力が抜けていく。
 雪菜の意識に靄をかけていくその気持ちは、さきほどの胸の比ではなかった。堪えようにも唇からは声が零れてしまう。
「んっ、ああっ」
 ぴくりと爪先に力が入る。
 もっと……、そんなことを思っている自分がいた。
「ここ、気持ちいいのか?」
 質問をしてくる蓮汰の指は次第に奥へと進んでいく。彼の指を飲み込んでいたとしても、今の自分ならなんの不思議はないように思えた。
「もう……っ、そんなこと聞かないで……」
 頬に熱が集まるのが分かり、顔を背けて小さな声で返す。
 部屋の中に粘り気の強い水音が響き、雪菜は部屋の隅に逃げたくなるような羞恥を覚えていた。
「悪い、悪い。……オレの手で雪菜が気持ち良くなってくれるなんてすげー嬉しいから、つい、な」
 蓮汰は悪びれた様子なくそう告げ、ははと笑う。最愛の人の笑顔を前に、雪菜はなにも返せなかった。
 そして暫くしてからぽつり、と呟く。
「……ズルい……」
 好きな人が笑顔を見せてくれるのは、どんな状況であれ嬉しい。その言葉に蓮汰は笑みを向けてくるだけだった。
 そのやり取りでなにかのスイッチが押されたかのように、陰部を刺激する手の動きが早くなっていく。
「あっ……ん」
 体の奥から広がっていく快感に、雪菜の背筋がびくりと跳ねる。無意識の内に両腕を蓮汰に回していた。
 腕を首に回すと、より蓮汰と密着できた。
「蓮ちゃん、大好きだよ……っ」
 喘ぎ声の合間に呟く。と、蓮汰も頷いてくれた。
「俺も、大好きだ」
 言葉を交わすと施される口づけに心まで蕩けそうになる。
「あ……」
 高ぶった体が蓮汰の胸に抱き寄せられたとき、雪菜はあることに気が付いた。
 なにか、硬いものが脇腹に当たっているのだ。
 なんだろうと不思議に思い手を伸ばしそれに触れると、蓮汰の声が詰まるのが聞こえてきた。
「っ」
 その声で、今触れたものの正体がなんなのか分かった気がする。
 あれは、蓮汰の――。
「ご、ごめん蓮ちゃん! わたし、分からなくて、その……っ!」
 腰をくねらせ蓮汰の手から逃れながら謝る。そうすると、少し呼吸が楽になる気がした。その言葉に、蓮汰の手の動きが止まった。
「あっ、俺こそわる、い……こんなにしちゃってさ……」
 雪菜が謝ると、蓮汰は決まりが悪そうに呟いてくる。ちらりと視線を持ち上げると、蓮汰の頬が僅かに赤みを帯びているのが見えた。
「ううん、謝らないで……変かもしれないけど、嬉しい……から」
 ぽつりと呟き自分の気持ちを言うと、蓮汰はどこか面食らったように、嬉しい? と聞き返してきた。
 こくりと首を縦に振る。そして唇を開いて続けた。
「うん、だって……蓮ちゃんも、その、わたしに興奮してくれてるんだよね? それってやっぱり嬉しいよ……」
「雪菜……」
 たどたどしく告げ最後に笑みを浮かべると、蓮汰が嬉しそうに笑みを返してくる。その笑顔を見ていると、自分も嬉しかった。
 同時に、少しだけ複雑だった。
「蓮ちゃんも……気持ち良くなりたいよね……ご、ごめん」
 今の状況を゛前戯゛と呼ぶのは、インターネットを通じて得た知識があるから分かる。そしてそれが、雪菜しか快感を得られないものだと言うことも。