腕の中の小さな命

男は瞳を光らせた。

『かくれんぼ』は得意じゃない。単に隠れればいいというのではなく、隠れながら逃げなければならない。できるだけ遠くへ、奴らの目の届かないところへ。身を隠しながらの逃亡は、なかなか骨が折れる。

冷や汗が頬を伝う。それを手で拭い、男は辺りを見回した。

誰もいない。

これは好機だとばかりに飛び出した。……つもりだった。だが、実際には一歩も動けていなかった。銃口が額を捉え、身動きが取れない状態になったためだ。

「みーっけ。もう、逃がさへんで」

少女は銃口を突き付けたまま、不敵に微笑む。後ろには誰もいない。女一人なら何とかなるか、そう思った男は、一歩、また一歩と少しずつ後退していく。隙ができれば、斬り付けてやればいい。だが相手はあの『よろず屋』、そんな隙を与えてくれるはずがなかった。

もう一歩、足を動かそうとした時、背に何かが当たった。何か……硬く、冷たいもの。

「動かない方がいいですよ。これ、結構痛いですから」

振り向いた瞬間、深紅の瞳に見つめられる。男は、すでに戦意を失っていた。
膝を付き、震え上がる。金髪の少女は面白くなさそうに口を尖らせた。

「何やつまらん。男のくせに骨のないやっちゃ」

「ロザリア、仕事に私情を挟むのはやめろといつも言っているだろう」

路地裏に響く靴音。二人は、同時に声のした方向を見た。その姿を目にした瞬間、ロザリアと呼ばれた露骨に嫌そうな顔をした。

「レスカ……」

「何だその顔は……私の何が気に入らないというんだ」

「あー、何や。しいて言うなら……全部?」

けらけらと楽しそうに笑うロザリア。レスカは内心苛立っていたが、顔に出さず冷静を欠かない。だが、そんな二人の間には火花が散っている。琥珀は二人を交互に見やり、どうしていいか分からず溜息をついた。

しばらく睨み合っていた二人だったが、収拾がつかないと判断し、互いに舌打ちを交わした。

「ほら、立て」

レスカが声をかけると、男は肩を震わせた。その顔は青ざめ、憔悴しきっている。恐怖を和らげるかのように爪を噛む姿は、何とも哀れだ。

なかなか立ち上がろうとしない男に痺れを切らし、レスカは首根っこを掴んで無理矢理立たせた。そして予め呼んでおいたワンボックスカーに放り入れ、腕を組む。

車が完全に見えなくなった頃、琥珀が声を張り上げた。