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何かを求めるつもりもなく、彼女――ナタリアは歩き続けた。歩いている間、ナタリアが見る景色が次第に変貌を遂げて行く。何年間彷徨い続けたのか分からない間、他の国へと渡った。その国は日本といって、自分の国とは違った華やかさがあったと聞く。だが、聞いたのと実際見たものとでは大きく文化が変わってきていた。
 気紛れに路地を歩いていると、男二人――痩せ型で怪しい男と小太りの男――に少女が一人、向き合うように対峙している。しかし、少女は頭や腕にけがを負っていて、追い詰められた状態だった。ちょうどいい。ナタリアは偶然少女の背後にいたのか、軽く肩を叩いて声をかけた。
「あなた、ケガしてるじゃない。このままだと殺されるというのに」
 ナタリアのいきなりの登場に、三人は呆然と此方に視線を向ける。少女を下がらせると、小太りの男は鼻で笑った。
「お嬢ちゃん。あんまりオレ達を甘く見ない方がいいよ。武器無しで倒せると思ってるのかい?」
 はははっと嘲笑めいた笑い声が、ナタリアの耳に届く。するとナタリアは、糸のようなものを取り出すと、指にそれを絡ませた。
「女だからといって、甘く見ないでくれる? 甘く見るとこうなるわ」
 ふふっと妖笑めいた声をこぼすと同時に、鋼鉄の糸が男二人の足を切った。ぐっと醜い声をあげる男を見て、ナタリアは再び笑う。もっと楽しませて。綺麗な唇から紡がれる言葉。もう勝ち目はないと分かったのか、男は脱兎のごとく逃げていった。
 少女は思わず、彼女の戦法に思わず見入ってしまう。自分が苦戦していた相手をいとも簡単に倒すなんて。わあ、とケガした少女はナタリアの勇姿を見て、拍手を送る。
「ありがとうございます。助かりました」
「別に。あなたのために助けたってわけじゃないから……」
 ただの気紛れとはいえ、此処まで感謝されるとは。ナタリアは思わぬ誤算をしていたのか、感謝している少女を見つめる。少女は自分に不審がることなく、そのまま両手をとっていた。
「私、よろず屋の琥珀といいます。あの、その銃撃の腕が凄くて……もしよろしかったら、よろず屋のメンバーになりませんか?」
 いきなりのスカウトに、ナタリアは瞳を大きくする。同時に自分は行く宛もなく、断る理由もない。少し考えたあと、ふっと笑って琥珀の両手を握り返した。
「そのよろず屋というの面白いじゃない。私で良ければ、入ってもいいわ。暇つぶしにもなるし」
 これで退屈はなくなった。新しい一歩を踏み出すと共に、ナタリアにとって琥珀との出会いが貴重な思い出となって、深く刻まれていくのだった。


終結