precious memories

 長い歳月をかけ
 初めて かけがえのない人に会った
 それが 私の――



precious memories




 少女が生まれたのは、人間ではない。人形として、長き歳月に渡って生き続けた。それは主の理想のために作られたもの。自分の理想ではない。主が死に、孤独となった少女に異変が起こったのは、彼が死んでから数年が経過したある日のことだった。
 その日の夜は、激しい雷雨に見舞われた。叩きつける風の音がとても強く、いつ割れてもおかしくはなかった。その時、地を割るような大きな雷鳴が鳴り響く。同時に稲妻が館内に落ちた。
 それからどれくらいの時間が過ぎたのか。人形の視界と意識がはっきりとした。このままじっとしていても、人形のままだったら、焼却される。だからといって、人間といえどほんの少し違和感を持つかもしれない。雷の光によって命を吹き込まれたことしか、分からない。
 雨が壊れた館内へと降り注ぐ。此処にいても、じっとしていることに苦痛を覚えるだけだ。少女はそう感じ、博物館を後にした。