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「さっき女の夜道は危険って忠告したばかりで、その舌の根が乾かない内に家まで送る、ですって。なんだか矛盾しているわ」
「……それはご尤もだが」
どう用心しても、言葉を重ねる毎に墓穴を掘るようだった。元来、愚直な性質を持つアイディールとしては、相手の上を行く舌鋒を披露するなどという離れ業が出来ようはずもない。指摘自体も悉く正論であるがゆえに、反論も怒りもないのだが、ナタリアのペースにすっかりはまってしまったのは確かだった。
困惑しているらしい相手の様子を見て、彼女はゆっくりと手を後ろに回し、歩み寄ってくる。月影を背にしたナタリアのシルエットを、白い光が縁取っていた。
まったく、一から十まで現実離れしている。
遂に眼前までやって来た至高の人形は、僅かに小首を傾げ、固唾を呑む英雄を見上げた。なんとも、相手の疑心を彼方へ追いやってしまうほど、艶やかに唇がしなる。