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「ただそれだけ。……それとも、月見をするのはそんなに可笑しい事かしら?」
「貴方の行動の是非を問う立場にはないが……女性の夜道は危険だろうに。さっきもこの近くで一件、飲酒絡みの騒ぎがあったばかりだ」
「あら、それは危ないわ」
細い指を絡ませて口元に当てると、ふんわりと微笑む。――その様子はどう見ても、自らにその“危険”は及ばないと確信しているようにしか思えない。
寧ろ危ないのは、彼女の傍で痴態を晒す向こう見ずさにあるのだと言わんばかりだ。これでは、どちらが被害者になるのかは分かったものではない。そんな底の見えないナタリアの言動に、一層注意を傾けて白い英雄は目を細める。
「此処から家は近いのかい?」
「ふふ。そんな事、どうしてあなたに教えなくちゃいけないの?」
「いや、距離があるのならお送りしようかと……ただのお節介だよ」