moon light

「月を見ていたのよ」

 彼女はそう言って笑う。黄金の満月が降らす明かりは、この地表へ届く頃にはすっかり冷え切っていた。

 それとも最初から、この光に熱などないのか。

 アイディールはライトグレイをしたマントの下で腕を組み、相対した女性、ナタリアを見つめる。

 一度は誰もが夢想しただろう、純粋無垢な少女像がそこにあった。それは限りなく現実味を伴った質感であるのに、まったく現実的ではない。空想の中、御伽噺の中で、年もとらず生き続ける、無欠の美しさ。

 僅かな光にもしなやかな輝きを秘める、長いブロンドの髪。宝石にも勝る、澄んだ紫の瞳。ありふれた小さな深夜の公園に忽然と現れた幻想は、くすりと笑みを零して再び月を仰ぐ。凍ったように天へ座した望月を。