01



紅蓮の総長になって数か月、生活は一切以前と変わらない。
「…はー」
紅蓮の総長、志方蓮(しかたれん)は満員電車で深くため息をついた。紅く染めた髪が目立つのか、電車では多く視線をもらう。自分がチャラついているという自覚はあるが、こうもぶしつけにじろじろ視線をもらうとは…。

なんて、思っていると電車が停車し、ドアが開く。ますますぎゅうづめになった車両内。
「う…」
座席側においやられ、ふと網棚に目をやると雑誌がのっていた。思わず手を伸ばし、見てみれば、月刊にゃんこ。
「にゃんことか…」
全く不良に似合わないフレーズだが、紅蓮の元総長であり、蓮の親友の黄色は大好きだった。よく、みられていないと思って猫ににゃーにゃー話しかけてたし。

両手でもって見ていると、自分の降りる駅に到着した。
電車から降りると何故か誰かに腕を掴まれる。あ、もしかして雑誌の持ち主か、などと考えていると――
「あなた!私にちかんしたでしょ!?」
あり得ない勘違い女だった。

「え〜?してないよ?」
「した!ちょっときて!」
マジかよ、と思いながらも蓮は女にひっぱられる。化粧しまくりのケバい女子に、蓮は眉をしかめた。連れて行かれたのは駅員室の前で、これは冤罪かけられるな、と逃げようとした時――。

「おいっ!テメエ!そこの女!」
「!?」
金髪で、華奢な不良が走ってこちらにやってきた。
蓮はめをぱちぱちと瞬きさせ、その人物を見る。

サイドだけ少し長い髪型に、大きな目、白い肌、耳にはこぶりのピアス、160センチ前半とみられる小さい身長。平凡よりの美形ってところか、と蓮が観察していると、蓮たちの前にやってきた不良は女をじろりとにらんだ。

「あんた、何うそついてんだよ」
「っ!?な、なによ」
「そうやって、痴漢冤罪ひっかけて楽しんでんだろ。こないだも見たぜ、ちゃんと駅員に説明したし」
「うそ!?あのときも――あっ!」
「ほらみろ、ばあか。それにこいつ、両手で雑誌もってたかんな!痴漢とかできねえんだかんな!」

ばーかばーか!と小学生かとつっこみたくなるような言葉で女を罵る不良に、蓮の目はくぎ付けになっていた。
「わ〜…かわい…」
なんか、猫みてえ。
そんなことを考えていると、今度は蓮に説教を始めた。
「テメエもちゃんと反論しろ!!」
「…うん、ごめんね〜」

へら、と笑うと、不良はばーかばーか!と再び小学生のようなボキャブラリーで怒り始めた。女はそそくさと逃げて行った。
「そして俺の月刊にゃんこを返せ!」
「あ、君のだったの。はい」
すっと差し出すと、不良の顔がかがやく。返してもらうとぎゅうっと抱きしめて「にゃんこ〜」とつぶやきつつ破顔する。
「…くそかわいい…」

そんな不良の様子に、蓮はノックアウトされたのだった。
「うわっ!な、何だ!?」
小さい頭を撫でてやると、にゃんこにゃんこ言っていた不良が慌てて蓮を見上げた。
蓮はにこにこ笑う。
「君、名前は?」
「は?なんで俺がそんなこと…」
「いい猫カフェがあるんだけど、一緒にどーお?」
「…にゃんこ…いや!知らない人についていくなって、おかあさ、じゃない!総長が言ってた!」
「…総長?」

この子はどこかの族に入っているのだろうか、そこまで考えて蓮の顔から笑顔が一瞬消える。そんな蓮に、不良は少しおびえたように肩をびくつかせたが、すぐに笑顔に戻る。
「ねえ、君さあ〜どこ所属?」
「っ、なんでお前にそんなこと…」
「ま、大体察しつてるけどね〜」

お母さん、といいかけてやめる不良が多いのは五龍の生徒だけだ。白銀――総長、甘地優。黄色美太は誰か別の人間と勘違いをしているようだが、勿論蓮はわかっている。
誤解をとかないのは、黄色がいない方が面倒じゃないからというのが一つと、どうやら思い人ができたらしいということを聞いたからだった。

「五龍の子、でしょ?」
「っテメエ、なにもんだ!どっかのチームか!?」
「ていうか、こんな髪色で一般人はないでしょ」
はっ!と今気付きましたと言わんばかりの不良に、蓮はくすくす笑う。不良の顔は真っ赤だ。
「かわいいな〜」
「ううう、うるさいっ!ばーかばーか!」
「で、キミはだあれ?」
「田中真だこんにゃろー!お前は誰だ!」
「へえ…」

まーくんかたっちゃんどっちがいい?と聞くと、俺は野球部じゃないからたっちゃんはだめ!と言われた。蓮はそれに爆笑し、今後まーくんと呼ぶことに決めた。

これが五龍のアホトリオの一人、田中真(たなかまこと)と志方蓮のファーストコンタクトである。
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